アデル・ド・フランス (ヴェクサン女伯)

アデル・ド・フランスの生涯：政略結婚と数奇な運命

アデル・ド・フランス（Adèle de France, 1160年10月4日 - 1220年頃）は、フランス王ルイ7世と2番目の妃コンスタンス・ド・カスティーユの間に生まれた娘です。彼女はヴェクサン女伯の称号を持ち、異母姉にマリー、同母姉にマルグリット、異母弟妹にフィリップ2世、アニェスがいました。

アデライード（Adélaïde）とも呼ばれ、しばしば父ルイ7世の最初の妃アリエノール・ダキテーヌとの娘である異母姉アリックス（マリーの同母妹）と混同されることがあります。英語名としては、アリス（Alys）として知られています。

生誕から結婚まで

アデルの母コンスタンスは、彼女の出産時に産褥死しました。当時、アンジュー帝国（イングランド王朝プランタジネット朝）の勢力が拡大していたため、父ルイ7世は政治的な思惑から、すぐに3番目の妃アデル・ド・シャンパーニュと再婚しました。この結婚から、ようやくルイ7世は唯一の男子であるフィリップ2世を授かります。

アデルの同母姉マルグリットは、誕生後すぐにアンジュー伯アンリ（後のイングランド王ヘンリー2世）の息子、若ヘンリーと婚約し、アデル誕生とほぼ同時期に2歳で結婚しました。1169年、ヘンリー2世がフランス王ルイ7世に臣従した際、アデルも9歳で若ヘンリーの弟リチャード（後のリチャード1世）と婚約し、イングランド王夫妻のもとで育てられることになりました。

複雑な婚約と政治的陰謀

しかし、ヘンリー2世は妃のアリエノールとの関係が悪化し、息子たちがアリエノールの前夫であるルイ7世を後ろ盾に反乱を起こすと、1174年にアリエノールを捕らえ、ポワティエに彼女の関係者を呼び寄せました。その中には婚約者であるアデルも含まれていましたが、ヘンリー2世はアデルをリチャードと結婚させず、彼女を自分のものにしたという噂が立ちました。この関係は概ね事実とされ、ヘンリー2世はアリエノールと離婚し、アデルと再婚する意思があったとも、2人の間に子供が生まれたがすぐに亡くなったとも言われています。

ルイ7世は、アデルとリチャードの結婚を早期に実現させようと、1177年にはローマ教皇アレクサンデル3世の特使をヘンリー2世の下に送りましたが、その願いは叶わず、娘の身を案じながら1180年に死去しました。

結婚の破談と晩年

ルイ7世の死後、異母弟のフィリップ2世が婚約問題を引き継ぎましたが、ヘンリー2世は結婚を拒否し続けました。アデルの嫁資であるジゾールの返還要求も、未亡人となったマルグリットの嫁資であるヴェクサンも返還されず、フランスとイングランドの確執が長引きました。これらの問題が原因で、ヘンリー2世はフィリップ2世と手を組んだリチャードの反逆に遭い、1189年に失意のうちに亡くなりました。

リチャード1世が王位を継承すると、彼とフィリップ2世の間で合意が成立し、第3回十字軍からの帰還後にアデルとリチャード1世が結婚することになりました。しかし、1191年3月、リチャード1世は1万マルクの違約金を支払って婚約を正式に破棄し、代わりにベレンガリア・オブ・ナヴァールと結婚しました。

1192年、フィリップ2世はリチャード1世が十字軍で不在中に、弟のジョンにアデルとの結婚とリチャード1世への謀反を誘いましたが、摂政を務めていたアリエノールによって阻止されました。

アデルは結局、1195年に二十数年ぶりにフランスに帰国し、フィリップ2世によって20歳近く年下のポンチュー伯ギヨーム2世と結婚しました。1199年に生まれた一人娘マリーがポンチュー伯領を相続しました。マリーの孫であるエリナー・オブ・カスティルを通じて、アデルの血筋はイングランド王家へと受け継がれることになりました。

アデル・ド・フランスの生涯は、中世ヨーロッパの複雑な政治情勢と、王族たちの結婚がどのように政略の道具として利用されていたかを物語っています。彼女の人生は、数々の婚約と破談、そして権力闘争に翻弄されながらも、その血筋は後の時代へと受け継がれていくという、数奇な運命をたどったものでした。

参考文献

桐生操『王妃アリエノール・ダキテーヌ -リチャード獅子王の母-』新書館、1988年。
レジーヌ・ペルヌー著、福本秀子訳『王妃アリエノール・ダキテーヌ』パピルス、1996年。
石井美樹子『イギリス 王妃たちの物語』朝日新聞社、1997年。
レジーヌ・ペルヌー著、福本秀子訳『リチャード獅子心王』白水社、2005年。

関連項目

十字軍 (1935年の映画)
冬のライオン

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