アナトール・リトヴァク

アナトール・リトヴァク (1902-1974) は、20世紀を代表する映画監督の一人です。ロシア帝国キエフ生まれの彼は、ユダヤ人の銀行家である父親の下、幼少期を過ごしました。14歳でサンクトペテルブルクに移住し、前衛劇場で俳優としてのキャリアをスタートさせます。その後、大学で哲学と演技を学び、俳優兼助手として劇団に所属しました。

1923年、リトヴァクはノルドキノ・スタジオに参加し、脚本や美術を担当する傍ら、自身の短編映画『Tatiana』を製作します。しかし、同年ドイツへと渡ります。ドイツでは、ゲオルク・ヴィルヘルム・パープストやアレキサンダー・ボルコフといった巨匠たちの下で、編集や助監督として経験を積みました。そして1930年、長編映画『Dolly macht Karriere』で監督デビューを果たします。

その後、ドイツで数本の作品を発表しますが、1933年のナチス政権の成立を機に、フランスへ亡命します。フランスでは、『最期の戦闘機』（1935年）、『うたかたの戀』（1936年）など、高い評価を得る作品を発表し、才能を開花させました。そして1937年、彼はハリウッドへと渡り、アメリカ映画界に進出します。

ハリウッドでは、犯罪映画やロマンス映画などを手掛け、その才能はすぐに認められました。第二次世界大戦中は、フランク・キャプラと共同で、プロパガンダ映画『我々はなぜ戦うのか』シリーズを制作しました。これらの作品は、戦争への国民の意識を高める上で重要な役割を果たしました。戦後には、フランス政府からレジオン・ドヌール勲章を授与されています。

戦後もアメリカで活動を続け、1948年の『蛇の穴』はアカデミー監督賞にノミネートされるなど、高い評価を受けました。イングリッド・バーグマン主演の『追想』（1956年）など、数々の名作を世に送り出しました。1960年代になると、再びヨーロッパでの活動を本格化させ、バーグマンやイヴ・モンタンら名優たちと仕事をし、『さよならをもう一度』（1961年）、『将軍たちの夜』（1967年）といった作品を発表しました。

リトヴァクの作品は、多様なジャンルにまたがり、その作風は時代や場所を超えて高く評価されています。ロシアでの初期の経験、ドイツでの修行時代、そしてフランスやハリウッドでの成功など、彼の波乱に満ちた人生は、まさに映画監督としての彼の才能を反映しています。彼の監督した作品群は、今日でも多くの映画愛好家たちに愛され続けており、20世紀映画史に大きな足跡を残した監督として、その功績は永遠に称えられることでしょう。

主な監督作品としては、『Dolly macht Karriere』（1930年）、『女人禁制』（1931年）、『今宵こそは』（1932年）、『最期の戦闘機』（1935年）、『うたかたの戀』（1936年）、『黄昏』（1938年）、『凡てこの世も天国も』（1940年）、『蛇の穴』（1948年）、『追想』（1956年）、『さよならをもう一度』（1961年）、『将軍たちの夜』（1967年）など、数多くの名作があります。これらの作品を通して、リトヴァクは時代を超越した、普遍的なテーマを描き続けました。彼の作品は、現代においても高い評価を得ており、映画史に残る名作として語り継がれています。1974年12月15日、フランスで亡くなりました。

もう一度検索