アブドッラフマーン・アーリフ

アブドッラフマーン・アーリフ：イラク第二共和政の大統領とその生涯

アブドッラフマーン・アーリフは、20世紀半ばのイラクを揺るがした数々の出来事に深く関わった人物です。軍人としてキャリアをスタートさせ、幾度ものクーデターを経験し、大統領にまで上り詰めた彼の波乱に満ちた生涯は、イラク近代史を理解する上で欠かせない要素となっています。

1916年生まれのアブドッラフマーンは、イラク陸軍の職業軍人として、1958年の王政打倒クーデターに身を投じました。このクーデターは、自由将校団による革命として知られており、イラクにおける君主制の終焉を告げる歴史的転換点となりました。アブドッラフマーンは、この革命の成功に貢献した一人としてその後のイラク政界で重要な役割を果たすことになります。

続く1963年には、弟であるアブドッサラーム・アーリフが主導したクーデターを支援しました。このクーデターによって、アブドルカリーム・カーシム首相が失脚し、アブドッサラームが権力を掌握します。アブドッラフマーンは、クーデター成功後、軍の要職に就き、イラク政界における影響力を拡大していきました。

1966年、アブドッサラーム大統領が航空機事故で急死するという悲劇に見舞われます。その後、首相が暫定的に大統領職を継承しましたが、短期間でアブドッラフマーンが大統領に就任しました。これは、アブドッサラームの政策を引き継ぎつつ、よりナショナリズム色の強い政治路線へと舵を切ったことを意味します。

アブドッラフマーンは、エジプトのナセル大統領を強く支持し、汎アラブ主義を掲げていました。そのため、1967年の第3次中東戦争にはイラク軍を派兵、イスラエルと戦いました。この戦争ではアラブ側が大きな損失を被りましたが、イラク軍は他のアラブ諸国と比較して比較的善戦したと評価されています。

しかし、アブドッラフマーンの大統領在任期間は長くは続きませんでした。1968年7月、バアス党員による無血クーデターによって大統領職を追われます。クーデター勢力はラジオ局と国防省を制圧し、アブドッラフマーンは抵抗することなく大統領職を辞任、トルコへと亡命しました。

その後、サッダーム・フセイン政権下でイラクに帰国したものの、政治の中枢からは遠ざかり、静かな余生を送りました。2003年のイラク戦争後の政権崩壊後、ヨルダンへ移住し、2007年にアンマンで亡くなりました。アブドッラフマーン・アーリフの生涯は、イラクの激動の時代を象徴するものであり、その功罪は歴史家の間で今もなお議論されています。彼の政治的立場、クーデターへの関与、そして戦争への対応は、現代イラクの歴史を理解する上で重要な視点を提供しています。アブドッラフマーン・アーリフという人物は、イラクの歴史の転換期に大きな役割を果たした、複雑で魅力的な存在であったと言えるでしょう。彼の経験は、イラクの歴史、そして中東の政治情勢を理解する上で重要なカギとなります。

もう一度検索