アブラシャトンネル

イスタンブールのアブラシャトンネル：ボスポラス海峡を貫く5.4kmの生命線

イスタンブールのアブラシャトンネル（Avrasya Tüneli）は、トルコの経済と交通の要衝であるボスポラス海峡を貫く、画期的な道路トンネルです。ヨーロッパ側とアジア側を結ぶこの全長5.4kmのトンネルは、イスタンブールの交通渋滞緩和と地域経済活性化に大きく貢献しています。

開通と概要

2016年12月20日に公式開通、22日には一般車両の通行が開始されました。ヨーロッパ側のクムカプとアジア側のカドゥキョイ・コシュヨルを結び、アプローチ道路を含めると全長14.6kmに及ぶ大規模なプロジェクトです。ボスポラス海峡の海底を貫通し、最深部は海面下106メートルに達しています。マルマライ海底鉄道トンネルから約1キロメートル南に位置し、ヨーロッパとアジア間の移動時間をわずか5分に短縮しました。

構想から建設まで

アブラシャトンネルの構想は、1997年のイスタンブール大学による交通マスタープランに遡ります。その後、2003年の事前実施可能性調査で道路トンネルが最適な解決策として選定され、2005年には日本工営による詳細な調査が行われました。既存の橋との交通分散、建設コストの削減、そして施設建設のための土地確保などを考慮し、現在の位置が決定されました。環境への影響や社会コストなども考慮された上で、計画は承認されました。

2009年には、トルコのヤプ・メルケジと韓国のSKグループによる合弁会社が設立され、BOT方式（建設・運営・移転方式）によって建設が進められました。欧州復興開発銀行（EBRD）をはじめ、欧州投資銀行、韓国輸出入銀行、日本の大手銀行など、多数の国際金融機関が巨額の融資を行いました。

プロジェクトの各区間

プロジェクトは、ヨーロッパ側、ボスポラス海峡横断、アジア側の3つの主要区間で構成されます。

ヨーロッパ側: クムカプ周辺の道路拡幅、アンダーパスや歩道橋の建設など、スムーズなトンネルへのアクセスを実現するための整備が行われました。
ボスポラス海峡横断: 5.4kmの二層構造トンネル。各層に2車線が確保され、料金所や管理ビル、換気立坑などが設置されています。
* アジア側: カドゥキョイ・コシュヨル周辺の道路拡幅、立体交差や歩道橋の建設などが行われました。

最先端技術と耐震設計

アブラシャトンネルの建設には、世界各国の最先端技術が結集されました。設計はアメリカのパーソンズ・ブリンカーホフとHNTB、技術・交通面検討はイギリスのアラップとアメリカのジェイコブズ・エンジニアリング・グループが担当。地質調査はオランダのフグロ、トンネル掘削マシンはドイツのヘレンクネヒト、工事管理はイタリアのイタルフェア、運営保守はフランスのエジス・グループが担当するなど、国際的な協力体制が構築されました。

ボスポラス海峡をくぐる3.4kmはトンネルボーリングマシン、残りの2kmはNATM（新オーストリアトンネル工法）と開削工法で掘削されました。地震多発地域であることを考慮し、独自の耐震ジョイントとセグメントが開発され、厳しい試験をクリアしています。設計上の地震規模はモーメントマグニチュード7.25、500年に1度の地震にも耐える設計となっています。

使用されたトンネルボーリングマシンは、様々な性能において世界トップクラスの能力を誇ります。高精度な掘削技術により、予定通りの工期で工事が完了しました。セグメントの製作精度も高く、高い耐久性を確保しています。

運行と通行料金

トンネル内の速度制限は70km/hです。開通当初の予測では、1日平均12万台の車両が通行するとされていました。通行料金は、当初、自動車で4米ドル、ミニバスで6米ドル（消費税込みのトルコリラ建て）と計画されていました。料金はアメリカ合衆国の消費者物価指数に連動しています。現在、自動車が23.30トルコリラ、ミニバスが34.90トルコリラとなっています。大型バス、トラック、自転車、バイクは通行できません。

アブラシャトンネルは、イスタンブールの発展に不可欠なインフラとして、その役割を果たし続けています。 その建設には、多くの国々の技術と資金、そして人々の努力が注がれ、まさに国際協力の結晶と言えるでしょう。

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