アブラボウズ

アブラボウズ（脂坊主、油坊主）

アブラボウズ（学名：Erilepis zonifer）は、北太平洋の深海に生息するカサゴ目ギンダラ科の魚類です。ギンダラ科に属する2種のうちの1種であり、アブラボウズ属としては唯一の種となります。

概要

体長は通常1.5m前後まで成長し、最大では全長183cm、体重91kgに達する記録があります。これはカサゴ目の魚類の中では最大級の大きさです。

生息域は北太平洋の深海、水深400m付近の岩場です。幼魚の頃は体表に白い斑点が見られますが、成長とともに濃い灰色へと変化します。ただし、老成魚になっても斑模様が残る個体もいます。尾びれの形状は後縁がわずかに湾入しているのが特徴です。

分布域は広く、北太平洋からベーリング海、そして中部カリフォルニアにかけて確認されています。日本国内においては、伊豆大島の水深約1000mの地点にも生息しているとされ、深海に適応するため、体脂肪率が約40%にも達すると言われています。伊豆大島近海の海溝からは、100kgを超える大型のアブラボウズが年に数匹水揚げされ、主に銚子市場で取引されています。

歴史を紐解くと、明治時代には小田原周辺で主要な漁獲対象であり、「オシツケ」「オッツケ」という名で地域食として親しまれていました。また、山梨県の鰍沢河岸跡からは、明治時代のものと思われるアブラボウズの椎骨や尾骨が出土しており、これは遺跡からの出土例としては初の事例となります。これらのアブラボウズは、小田原や駿河湾で漁獲されたものが運ばれてきた可能性が考えられています。

飼育の面では、市立室蘭水族館が日本で初めて飼育に成功しており、30年近く生きた個体も確認されています。この記録から、アブラボウズは非常に長寿な魚であることが示唆されます。

現在、神奈川県小田原市では、アブラボウズを特産魚として位置づけ、その知名度向上に力を入れています。

クエへの偽装問題

アブラボウズは、高級魚であるクエと外見が似ているため、特にクエを珍重する西日本地域において、意図的にクエと偽って販売される事例が報告されています。2008年には、大阪府の卸売業者がJAS法違反で改善指示を受けたり、福岡県の料理店で捜査が行われるなどの事件も発生しました。クエの人気と価格が高騰していることが、安価なアブラボウズを流用する動機になっていると考えられます。

アブラボウズも高級魚として扱われていますが、クエは淡白で上品な味わいの白身が特徴であるのに対し、アブラボウズは脂が乗った甘みのある白身が特徴です。また、市場価格も大きく異なり、クエはアブラボウズの3倍から7倍程度で取引されるため、本来は異なる市場を形成すべき魚種と言えます。

食材としての利用と調理法

アブラボウズは、バラムツやアブラソコムツと同様に筋肉中に多量の脂質を含んでいますが、これらの魚種とは異なり、人体に有害な成分は含まれていません。そのため、流通が禁止されることはありません。ただし、大量に摂取すると下痢を引き起こす可能性があるため注意が必要です。また、肝臓には過剰なビタミンAが含まれているため、こちらも摂取には注意が必要です。

アブラボウズの取り扱いは市場によって異なり、例えば札幌市中央卸売市場では2008年から取り扱いを開始しましたが、販売者に対して注意喚起を行っています。一方、銚子漁港に水揚げされるアブラボウズは最高級品として高値で取引され、神奈川県（小田原漁港など）や静岡県の各漁港では「おしつけ」という愛称で古くから珍重されています。特に東日本（関東・東海地方）での人気が高い魚です。

大型魚であるため、水揚げ後は肝臓などを取り除き、2～3日寝かせてからが食べ頃とされています。調理法は、煮付け、焼き物、揚げ物、刺身など、一般的な白身魚と同様に様々な料理に利用できます。

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