アブラボテ

アブラボテ（学名：Tanakia limbata）は、コイ科アブラボテ属に分類される日本固有の淡水魚です。

分布

アブラボテは、濃尾平野以西の本州、四国北部、九州北部、淡路島に分布しています。かつては朝鮮半島にも分布していたとされていましたが、その個体群は現在、コウライボテ、ソムジンボテ、ラクトウボテとして別種に分類され、アブラボテは日本固有種となりました。ただし、中国地方にはソムジンボテと同系統の集団が存在する可能性が指摘されています。

形態

アブラボテは、遺伝的に3つの系統に分かれています。体長は通常4〜7cmですが、大型個体では10cmに達することもあります。体形はヤリタナゴに比べて体高が高く、側扁しています。体色は褐色を帯びた銀白色で、体側に模様や縦帯はありません。和名のアブラは体色の光沢から、ボテはタナゴの俗称に由来します。側線は完全で、側線鱗数は32〜36です。口角には一対の長い口髭があります。背鰭には紡錘形のオレンジ色の斑紋があり、尻鰭の縁は黒いです。種小名limbataは「縁のある」という意味で、特に九州の個体群では縁の黒色帯が2本現れるのが特徴です。

繁殖期のオスは婚姻色を帯びます。その発現様態は生息地によって異なり、濃尾平野から関西地方では暗緑色、岡山では紫色、九州では褐色に変化します。また、吻端には白い瘤（追星）が現れます。メスは繁殖期に黒い産卵管を伸ばします。

生態

アブラボテは、水の澄んだ河川や用水路などに生息しています。普段は単独で生活し、縄張りを形成しますが、稚魚は群れを作って水草の間に潜んでいます。食性は雑食で、小型の水生昆虫や甲殻類、藻類などを食べます。繁殖形態は卵生で、3〜7月にかけてドブガイやマツカサガイなどのイシガイ目の二枚貝に卵を産み付けます。

保全状況

アブラボテは、環境省レッドリストにおいて準絶滅危惧（NT）に指定されています。開発による生息地の破壊、二枚貝の減少、ペット用の乱獲などが減少の主な原因です。各地の自治体もレッドリストに指定しており、その保全が課題となっています。

利用

アブラボテは食用としては利用されません。味が苦く、寄生虫を持っている可能性があるため、生食は推奨されていません。採集方法としては、網を使って水草ごと掬う方法や、釣りで捕らえる方法があります。観賞魚として飼育されることもありますが、タナゴ類の中では最も気が荒いため、同居魚には注意が必要です。繁殖させるには、水槽内で二枚貝と同居させるか、人工授精を行う必要がありますが、どちらも管理が難しく、飼育個体の野外への遺棄は、遺伝子汚染や病気の伝播を引き起こす可能性があるため厳禁です。また、ナマズなどの釣り餌として利用されることもあります。

参考資料

『原色ワイド図鑑5 魚・貝』 学習研究社、1984年
『小学館の図鑑NEO 魚』 小学館、2003年
赤井裕、秋山信彦、鈴木伸洋、増田修『タナゴのすべて』エムピージェー、2004年
北村淳一、内山りゅう『日本のタナゴ』山と渓谷社、2020年

FishBase

関連項目

魚の一覧
タナゴ亜科

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