タナゴ亜科
タナゴ亜科（Acheilognathinae）は、コイ目コイ科に属する亜科で、その特徴的な生態から注目を集める淡水魚のグループです。
タナゴ亜科の最大の特徴は、オスが繁殖期に見せる鮮やかな婚姻色と、二枚貝の体内に産卵するという独特な繁殖行動です。この習性は、他のコイ科の魚には見られない特異なもので、タナゴ亜科を特徴づける重要な要素となっています。
タナゴ亜科は、日本を含むユーラシア大陸に広く分布し、5属60種ほどが知られています。特に東アジア地域、日本、朝鮮半島、中国などで多様な種が見られます。
日本では、かつては身近な存在であったタナゴ類ですが、近年は環境の変化や外来種の影響により、多くの種が絶滅の危機に瀕しています。
タナゴ亜科には、以下の属が含まれます。
タナゴ属 (Acheilognathus): タナゴ、カネヒラ、イタセンパラなど
タイワンタナゴ属 (Paratanakia): タイワンタナゴ、キヒレタイワンタナゴ
バラタナゴ属 (Rhodeus): バラタナゴ、カゼトゲタナゴなど
Sinorhodeus属: シーナンタナゴ
アブラボテ属 (Tanakia): アブラボテ、ヤリタナゴ、ミヤコタナゴなど
日本には3属18種（亜種を含む）が生息していますが、そのうち2種は外来種です。多くの種が日本固有種または固有亜種となっています。
タナゴ亜科の魚は、体長数cmから10cm程度の小型魚です。体は左右に平たい側扁形で、種類によっては口元に一対のひげを持つものもいます。
タナゴ亜科は、河川や湖沼、用水路、ため池などの淡水域に生息し、雑食性で藻類、水草、プランクトン、小型水生昆虫、甲殻類、魚卵など、様々なものを食べます。種によっては植物食への偏りがみられるものもいます。
タナゴ亜科の繁殖行動は非常に特殊です。ほとんどの種がイシガイ科やカワシンジュガイ科の二枚貝に産卵し、孵化した仔魚も二枚貝の体内でしばらく生活します。
繁殖期になると、オスは鮮やかな婚姻色を発現し、メスを誘います。メスは二枚貝の出水管に産卵管を差し込み、外套腔内に卵を産みつけます。その後、オスが放精し、受精が行われます。
卵は二枚貝の体内で孵化し、仔魚は卵黄を吸収しながら成長します。仔魚が貝から泳ぎ出る頃には、全長1cm近くまで成長しています。
タナゴ亜科の魚は、種間で雑種を作ることが可能ですが、ほとんどの場合、不妊のオスしか生まれません。しかし、一部の組み合わせでは、累代可能な雑種も生まれることが確認されています。
また、イタセンパラやコウライボテ、タイワンタナゴなどは、他種との交雑が難しく、卵の段階で成長が止まってしまいます。
タナゴ類は、かつては身近な淡水魚でしたが、近年は生息環境の悪化や外来種の影響により、数を減らしています。
タナゴ釣りは、かつては上流階級の趣味として親しまれていましたが、現代でも釣り趣味の一つとして人気があります。
また、タナゴ類は食用としても利用され、佃煮や甘露煮などの加工食品として流通しています。
しかし、近年では、観賞魚としての人気が高まり、乱獲されることもあり、保護活動の必要性が高まっています。
ミヤコタナゴ、イタセンパラ、セボシタビラなどは、国の天然記念物や国内希少野生動植物種に指定され、保護の対象となっています。また、環境省レッドリストでは、ほとんどの在来タナゴが絶滅危惧種にリストアップされています。
タナゴ (Acheilognathus melanogaster): 関東地方と東北地方の太平洋岸に分布。体側に桃色と青緑色の縦線が特徴。
カネヒラ (A. rhombeus): 日本産タナゴの最大種。琵琶湖淀川水系以西の本州と九州北部に分布。
イチモンジタナゴ (A. cyanostigma): 体側に青緑色の縦線が一本走る。琵琶湖・淀川水系、福井県三方五湖周辺、濃尾平野などに分布。
イタセンパラ (A. longipinnis): 体高が高く、オスの婚姻色が鮮やか。大阪府淀川水系、濃尾平野、富山県氷見市などに分布。
オオタナゴ (A. macropterus): 大型種で、全長20cmに達するものもいる。中国から日本に侵入。
アブラボテ (Tanakia limbata): 婚姻色が褐色が強い。濃尾平野以西の本州、四国、九州に分布。
ヤリタナゴ (T. lanceolata): 長い口ひげが特徴。北海道と九州南部を除く日本本土に分布。
ミヤコタナゴ (T. tanago): オスの婚姻色が特徴的。関東地方の限られた地域にのみ分布。
バラタナゴ (Rhodeus ocellatus): ニッポンバラタナゴとタイリクバラタナゴの2種がいる。タイリクバラタナゴは各地でニッポンバラタナゴと交雑し、遺伝子汚染が問題となっている。
カゼトゲタナゴ (R. atremius atremius): 小型種。九州北部と壱岐島に分布。
ヨーロッパタナゴ (R. amarus): ヨーロッパ原産種。Bitterling（タナゴ類）の呼称は本種を指す場合が多い。
赤井裕ほか 『タナゴのすべて』マリン企画、2004年。
川那部浩哉・水野信彦・細谷和海編『山渓カラー名鑑 改訂版 日本の淡水魚』山と渓谷社、2001年。
リバーフロント整備センター編『フィールド総合図鑑 川の生物』山海堂、1996年。
『詳細図鑑 さかなの見分け方 新装版』講談社、2002年。
『野外観察図鑑4 魚 改訂版』旺文社、1998年。
佐土哲也、松沢陽士『タナゴハンドブック』文一総合出版、2011年。
北村淳一、内山りゅう『日本のタナゴ』山と渓谷社、2020年。
魚の一覧
* コイ科
特徴的な生態
タナゴ亜科の最大の特徴は、オスが繁殖期に見せる鮮やかな婚姻色と、二枚貝の体内に産卵するという独特な繁殖行動です。この習性は、他のコイ科の魚には見られない特異なもので、タナゴ亜科を特徴づける重要な要素となっています。
分布と多様性
タナゴ亜科は、日本を含むユーラシア大陸に広く分布し、5属60種ほどが知られています。特に東アジア地域、日本、朝鮮半島、中国などで多様な種が見られます。
日本では、かつては身近な存在であったタナゴ類ですが、近年は環境の変化や外来種の影響により、多くの種が絶滅の危機に瀕しています。
分類
タナゴ亜科には、以下の属が含まれます。
タナゴ属 (Acheilognathus): タナゴ、カネヒラ、イタセンパラなど
タイワンタナゴ属 (Paratanakia): タイワンタナゴ、キヒレタイワンタナゴ
バラタナゴ属 (Rhodeus): バラタナゴ、カゼトゲタナゴなど
Sinorhodeus属: シーナンタナゴ
アブラボテ属 (Tanakia): アブラボテ、ヤリタナゴ、ミヤコタナゴなど
日本には3属18種（亜種を含む）が生息していますが、そのうち2種は外来種です。多くの種が日本固有種または固有亜種となっています。
形態
タナゴ亜科の魚は、体長数cmから10cm程度の小型魚です。体は左右に平たい側扁形で、種類によっては口元に一対のひげを持つものもいます。
生態
タナゴ亜科は、河川や湖沼、用水路、ため池などの淡水域に生息し、雑食性で藻類、水草、プランクトン、小型水生昆虫、甲殻類、魚卵など、様々なものを食べます。種によっては植物食への偏りがみられるものもいます。
繁殖行動
タナゴ亜科の繁殖行動は非常に特殊です。ほとんどの種がイシガイ科やカワシンジュガイ科の二枚貝に産卵し、孵化した仔魚も二枚貝の体内でしばらく生活します。
繁殖期になると、オスは鮮やかな婚姻色を発現し、メスを誘います。メスは二枚貝の出水管に産卵管を差し込み、外套腔内に卵を産みつけます。その後、オスが放精し、受精が行われます。
卵は二枚貝の体内で孵化し、仔魚は卵黄を吸収しながら成長します。仔魚が貝から泳ぎ出る頃には、全長1cm近くまで成長しています。
タナゴ類の雑種
タナゴ亜科の魚は、種間で雑種を作ることが可能ですが、ほとんどの場合、不妊のオスしか生まれません。しかし、一部の組み合わせでは、累代可能な雑種も生まれることが確認されています。
また、イタセンパラやコウライボテ、タイワンタナゴなどは、他種との交雑が難しく、卵の段階で成長が止まってしまいます。
人間との関わり
タナゴ類は、かつては身近な淡水魚でしたが、近年は生息環境の悪化や外来種の影響により、数を減らしています。
タナゴ釣りは、かつては上流階級の趣味として親しまれていましたが、現代でも釣り趣味の一つとして人気があります。
また、タナゴ類は食用としても利用され、佃煮や甘露煮などの加工食品として流通しています。
しかし、近年では、観賞魚としての人気が高まり、乱獲されることもあり、保護活動の必要性が高まっています。
保護の現状
ミヤコタナゴ、イタセンパラ、セボシタビラなどは、国の天然記念物や国内希少野生動植物種に指定され、保護の対象となっています。また、環境省レッドリストでは、ほとんどの在来タナゴが絶滅危惧種にリストアップされています。
おもな種類
タナゴ (Acheilognathus melanogaster): 関東地方と東北地方の太平洋岸に分布。体側に桃色と青緑色の縦線が特徴。
カネヒラ (A. rhombeus): 日本産タナゴの最大種。琵琶湖淀川水系以西の本州と九州北部に分布。
イチモンジタナゴ (A. cyanostigma): 体側に青緑色の縦線が一本走る。琵琶湖・淀川水系、福井県三方五湖周辺、濃尾平野などに分布。
イタセンパラ (A. longipinnis): 体高が高く、オスの婚姻色が鮮やか。大阪府淀川水系、濃尾平野、富山県氷見市などに分布。
オオタナゴ (A. macropterus): 大型種で、全長20cmに達するものもいる。中国から日本に侵入。
アブラボテ (Tanakia limbata): 婚姻色が褐色が強い。濃尾平野以西の本州、四国、九州に分布。
ヤリタナゴ (T. lanceolata): 長い口ひげが特徴。北海道と九州南部を除く日本本土に分布。
ミヤコタナゴ (T. tanago): オスの婚姻色が特徴的。関東地方の限られた地域にのみ分布。
バラタナゴ (Rhodeus ocellatus): ニッポンバラタナゴとタイリクバラタナゴの2種がいる。タイリクバラタナゴは各地でニッポンバラタナゴと交雑し、遺伝子汚染が問題となっている。
カゼトゲタナゴ (R. atremius atremius): 小型種。九州北部と壱岐島に分布。
ヨーロッパタナゴ (R. amarus): ヨーロッパ原産種。Bitterling（タナゴ類）の呼称は本種を指す場合が多い。
参考文献
赤井裕ほか 『タナゴのすべて』マリン企画、2004年。
川那部浩哉・水野信彦・細谷和海編『山渓カラー名鑑 改訂版 日本の淡水魚』山と渓谷社、2001年。
リバーフロント整備センター編『フィールド総合図鑑 川の生物』山海堂、1996年。
『詳細図鑑 さかなの見分け方 新装版』講談社、2002年。
『野外観察図鑑4 魚 改訂版』旺文社、1998年。
佐土哲也、松沢陽士『タナゴハンドブック』文一総合出版、2011年。
北村淳一、内山りゅう『日本のタナゴ』山と渓谷社、2020年。
関連項目
魚の一覧
* コイ科
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