コイ科
コイ科（学名：Cyprinidae）は、コイ目に属する魚類の分類群であり、淡水魚の中で最大の科です。この科には、コイやヒメハヤなど約3000種が属しており、その多様性が特徴です。ハゼ科と並び、脊椎動物全体でも最大の科の一つに数えられます。多くの水産重要種を含み、観賞魚としてアクアリウムで飼育される種も豊富です。また、ゼブラフィッシュ（Danio rerio）のように、生物学における重要なモデル動物として利用されている種も存在します。
コイ科の名称は、古代ギリシア語でコイを意味する「キュプリーノス（κυπρῖνος）」に由来します。
コイ科には、コイ目の中で最大種であるパーカーホ（Catlocarpio siamensis）が含まれます。タイに生息するこの魚は、体長が少なくとも2.5mに達し、最大で3mに及ぶこともあります。インドのブラマプトラ川に生息するTor putitoraも、最大で2.7mに達すると考えられています。アジアには、他に2mを超える大型種が2種知られています。北アメリカでは、コロラド川に生息するPtychocheilus luciusが最大のコイ科魚類です。一方で、ミャンマーの河川に生息するDanionella属の2種（D. translucidaおよびD. mirifer）は、体長1cm強で成熟する超小型種です。多くの一般的なコイ科魚類は、体長5cm未満です。
コイ科魚類の咽頭歯は1列から3列で、各列とも8本を超えることはありません。多くの種では唇が薄く、ひだや突起は存在しません。口ヒゲの有無は種によって異なります。上顎はほぼ完全に前上顎骨によって縁取られ、前に突き出すことが可能です。また、200本以上の鰓耙を持つ種類（Pectenocypris balaena）も存在します。
コイ科魚類の化石は、アジアの始新世の地層から最も古く産出されています。ヨーロッパや北アメリカでは、漸新世のものが最古とされています。北アメリカには始新世には他の骨鰾類が存在していましたが、コイ類は分布していなかったと考えられています。台湾島からは、鮮新世のコイ科魚類の化石（咽頭歯）が報告されています。
コイ科魚類は、かつては遊泳能力と頭部の可動性に基づいて2つの亜科に分けられていましたが、現在ではより詳細に分類されています。コイ目の魚は全て卵生であり、一部には巣作りや卵を保護する習性を持つ種もいます。
コイ科魚類の分布は、メキシコ南部までの北アメリカ、アフリカ大陸、ユーラシア大陸と広範囲に及びます。南アメリカやオセアニアには生息していません。ほぼ全ての種が淡水産ですが、ウグイ亜科の一部には汽水域に進出する種類も知られています。
主な種としては、コイ（Cyprinus carpio）、キンギョ（Carassius auratus）、ヨーロッパブナ（Carassius carassius）、チャブ（Leuciscus cephalus）、バーベル（Barbus barbus）、シルバーシャーク（Balantiocheilus melanopterus）、ダニオ、ラスボラ、ローチ、デイスなどが挙げられます。
コイ科は、以下の亜科に分類されます。
Psilorhynchinae: 2属6種を含み、体長8cm程度の小型魚類です。ネパールおよび隣接するインド・ミャンマーの山岳地帯に分布し、流れの速い渓流での生活に適応しています。頭部腹面が平らで口は小さく、肉質の唇を持ちます。口ヒゲはなく、鰓の開口部は小さいです。咽頭歯は1列4本で、側線が発達する一方で、浮き袋は退化的です。かつては独立科とされていたこともあります。
コイ亜科 Cyprininae: 約1300種を含み、コイやフナ（キンギョ）がよく知られています。ドクターフィッシュやプンティウス属、シルバーシャークなどの熱帯魚も含まれます。
ダニオ亜科 Danioninae: 約300種を含み、ラスボラなどの熱帯魚や、モデル生物として利用されるゼブラフィッシュが含まれます。
Leptobarbinae: 1属（Leptobarbus）に5種が含まれ、東南アジアに分布しています。
タナゴ亜科 Acheilognathinae: 4属に約80種が属し、中央アジアを除くユーラシア大陸および日本列島に分布しています。カネヒラ、タナゴ、イタセンパラ、アカヒレタビラ、ニッポンバラタナゴ、アブラボテなどのタナゴ類が含まれます。
カマツカ亜科 Gobioninae: 約200種を含み、ユーラシア全域に産しますが、タイリクスナモグリ属Gobio以外のほとんどの属は東南アジアおよび日本に限局します。ニゴイ、スゴモロコ、カワヒガイ、モツゴ、カマツカ、ツチフキなどが含まれます。
ウグイ亜科 Leuciscinae: 約700種を含み、コイ科の中で北アメリカに自然分布する唯一のグループです。インドおよび東南アジアには分布していません。ウグイやアブラハヤなどが含まれます。
クセノキプリス亜科 Oxygastrinae: 約150種を含み、東アジアから東南アジアに分布します。カワムツ属やハス属などはかつてダニオ亜科に属していましたが、他のダニオとは系統が異なるため分離されました。
所属未定の属として、Araiocypris（1種）、Tanichthys（3種、アカヒレ）、Tinca（1種、テンチ）、Capoetobrama（2種）、Leucalburnus（1種）、Placogobio（2種）、Atrilinea（3種）、Rasborichthys（1種）があります。
コイ科の系統樹は、以下のようになります（詳細な系統関係は研究により変動する可能性があります）。
（系統樹の詳細はここでは省略します）
（出典・脚注は省略します）
Nelson JS, Fishes of the World (4th ed), New York, John Wiley & Sons INC, 2006, ISBN 0-471-25031-7
上野輝彌・坂本一男 『新版 魚の分類の図鑑』 東海大学出版会 2005年 ISBN 978-4-486-01700-4
川那部浩哉・水野信彦・細谷和海 編・監修 『日本の淡水魚 改訂版』 山と溪谷社 1989年 ISBN 4-635-09021-3
松浦啓一編著 『魚の形を考える』 東海大学出版会 2005年 ISBN 4-486-01674-2
岩井保 『魚学入門』 恒星社厚生閣 2005年 ISBN 978-4-7699-1012-1
コイ目
コイ科の名称は、古代ギリシア語でコイを意味する「キュプリーノス（κυπρῖνος）」に由来します。
概要
コイ科には、コイ目の中で最大種であるパーカーホ（Catlocarpio siamensis）が含まれます。タイに生息するこの魚は、体長が少なくとも2.5mに達し、最大で3mに及ぶこともあります。インドのブラマプトラ川に生息するTor putitoraも、最大で2.7mに達すると考えられています。アジアには、他に2mを超える大型種が2種知られています。北アメリカでは、コロラド川に生息するPtychocheilus luciusが最大のコイ科魚類です。一方で、ミャンマーの河川に生息するDanionella属の2種（D. translucidaおよびD. mirifer）は、体長1cm強で成熟する超小型種です。多くの一般的なコイ科魚類は、体長5cm未満です。
コイ科魚類の咽頭歯は1列から3列で、各列とも8本を超えることはありません。多くの種では唇が薄く、ひだや突起は存在しません。口ヒゲの有無は種によって異なります。上顎はほぼ完全に前上顎骨によって縁取られ、前に突き出すことが可能です。また、200本以上の鰓耙を持つ種類（Pectenocypris balaena）も存在します。
コイ科魚類の化石は、アジアの始新世の地層から最も古く産出されています。ヨーロッパや北アメリカでは、漸新世のものが最古とされています。北アメリカには始新世には他の骨鰾類が存在していましたが、コイ類は分布していなかったと考えられています。台湾島からは、鮮新世のコイ科魚類の化石（咽頭歯）が報告されています。
コイ科魚類は、かつては遊泳能力と頭部の可動性に基づいて2つの亜科に分けられていましたが、現在ではより詳細に分類されています。コイ目の魚は全て卵生であり、一部には巣作りや卵を保護する習性を持つ種もいます。
コイ科魚類の分布は、メキシコ南部までの北アメリカ、アフリカ大陸、ユーラシア大陸と広範囲に及びます。南アメリカやオセアニアには生息していません。ほぼ全ての種が淡水産ですが、ウグイ亜科の一部には汽水域に進出する種類も知られています。
主な種としては、コイ（Cyprinus carpio）、キンギョ（Carassius auratus）、ヨーロッパブナ（Carassius carassius）、チャブ（Leuciscus cephalus）、バーベル（Barbus barbus）、シルバーシャーク（Balantiocheilus melanopterus）、ダニオ、ラスボラ、ローチ、デイスなどが挙げられます。
分類
コイ科は、以下の亜科に分類されます。
Psilorhynchinae: 2属6種を含み、体長8cm程度の小型魚類です。ネパールおよび隣接するインド・ミャンマーの山岳地帯に分布し、流れの速い渓流での生活に適応しています。頭部腹面が平らで口は小さく、肉質の唇を持ちます。口ヒゲはなく、鰓の開口部は小さいです。咽頭歯は1列4本で、側線が発達する一方で、浮き袋は退化的です。かつては独立科とされていたこともあります。
コイ亜科 Cyprininae: 約1300種を含み、コイやフナ（キンギョ）がよく知られています。ドクターフィッシュやプンティウス属、シルバーシャークなどの熱帯魚も含まれます。
ダニオ亜科 Danioninae: 約300種を含み、ラスボラなどの熱帯魚や、モデル生物として利用されるゼブラフィッシュが含まれます。
Leptobarbinae: 1属（Leptobarbus）に5種が含まれ、東南アジアに分布しています。
タナゴ亜科 Acheilognathinae: 4属に約80種が属し、中央アジアを除くユーラシア大陸および日本列島に分布しています。カネヒラ、タナゴ、イタセンパラ、アカヒレタビラ、ニッポンバラタナゴ、アブラボテなどのタナゴ類が含まれます。
カマツカ亜科 Gobioninae: 約200種を含み、ユーラシア全域に産しますが、タイリクスナモグリ属Gobio以外のほとんどの属は東南アジアおよび日本に限局します。ニゴイ、スゴモロコ、カワヒガイ、モツゴ、カマツカ、ツチフキなどが含まれます。
ウグイ亜科 Leuciscinae: 約700種を含み、コイ科の中で北アメリカに自然分布する唯一のグループです。インドおよび東南アジアには分布していません。ウグイやアブラハヤなどが含まれます。
クセノキプリス亜科 Oxygastrinae: 約150種を含み、東アジアから東南アジアに分布します。カワムツ属やハス属などはかつてダニオ亜科に属していましたが、他のダニオとは系統が異なるため分離されました。
所属未定の属として、Araiocypris（1種）、Tanichthys（3種、アカヒレ）、Tinca（1種、テンチ）、Capoetobrama（2種）、Leucalburnus（1種）、Placogobio（2種）、Atrilinea（3種）、Rasborichthys（1種）があります。
系統
コイ科の系統樹は、以下のようになります（詳細な系統関係は研究により変動する可能性があります）。
（系統樹の詳細はここでは省略します）
出典・脚注
（出典・脚注は省略します）
参考文献
Nelson JS, Fishes of the World (4th ed), New York, John Wiley & Sons INC, 2006, ISBN 0-471-25031-7
上野輝彌・坂本一男 『新版 魚の分類の図鑑』 東海大学出版会 2005年 ISBN 978-4-486-01700-4
川那部浩哉・水野信彦・細谷和海 編・監修 『日本の淡水魚 改訂版』 山と溪谷社 1989年 ISBN 4-635-09021-3
松浦啓一編著 『魚の形を考える』 東海大学出版会 2005年 ISBN 4-486-01674-2
岩井保 『魚学入門』 恒星社厚生閣 2005年 ISBN 978-4-7699-1012-1
関連項目
コイ目
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