アブル・マアーリー・ジュワイニー

アブル・マアーリー・ジュワイニー：11世紀イスラム世界を代表する法学者

アブル・マアーリー・ジュワイニー（1028年 - 1085年）は、11世紀のホラーサーン地方（現在のイラン東北部）を舞台に活躍した、イスラム法学史に輝く名学者です。スンナ派のアシュアリー神学を基盤としつつ、シャーフィイー法学派に属した彼は、その深い学識と卓越した論理力で、後世のイスラム思想に多大な影響を与えました。

生涯：学問の道を歩む

ジュワイニーは、ナイサーブール近郊のジュワイン村で生まれました。彼の父もシャーフィイー法学派の著名な法学者であり、兄もハディースを教えるスーフィーであったことから、彼は恵まれた環境の中で育ちました。経済的に豊かで知的な雰囲気に満ちた地域で育ったジュワイニーは、自然と学問の世界へと導かれていきます。

幼い頃から優れた才能を示した彼は、地元で学びを深め、その後、アシュアリー派の神学を研鑽しました。しかし、後にその学習経験を「無駄だった」と振り返るなど、常に自身の学問への探求を続け、自身の限界に挑み続けました。19歳の若さで法学の教授となり、その後はマッカとメディーナへ旅立ち、ヒジャーズ地方で4年間を過ごしました。そこで彼は多くの弟子を持ち、学問の研鑽を続けました。

帰国後、ニザーミーヤ学院（ニザームル・ムルクによって設立されたマドラサ）に招聘され、アシュアリー神学の教授として約26年間教鞭を執りました。この学院で彼は数多くの弟子を育成し、その中にはガザーリーのような著名な人物も含まれます。ガザーリーのスーフィズムに関する思想にも、ジュワイニーの影響が色濃く見られると言われています。ジュワイニーの生涯は、イスラム法学の研究と教育に捧げられ、多くの著作を残しました。

思想：聖典と論理に基づく解釈

ジュワイニーは、スンナ派の法学者であると同時に、ムタカッリム（神学者）としても知られています。彼は、信条に関する問題を論理的に解明することに情熱を注ぎ、聖典（クルアーンとハディース）の正確な理解と解釈に重点を置きました。彼は、聖典の文言には、行動規範に関するあらゆる結論を導き出す余地があると信じていました。

ジュワイニーは、常に理屈を重視し、どんな場合でも論理を軽視してはならないと考えていました。彼は、人々がしばしば移ろいやすい物事に心を奪われがちであることを指摘し、そのような状況においても、神の権能を思い起こすことで心の平安を得ることができると説きました。

主要著作：『信条の決定解への導きの書』

彼の代表作である『信条の決定解への導きの書』（Kitab Al-Irshad Ila Qawati' Al-Adilla Fi Usul al-I'tiqad）は、アシュアリー派の教義を体系的に解説した重要な著作です。この書において、ジュワイニーは、神（アッラー）の唯一性と全能性を強調し、人々の信仰のあり方を説いています。さらに、法学理論にも深く関わり、「規範の廃棄」といった複雑な問題についても考察しました。

その他の著作と影響

『信条の決定解への導きの書』以外にも、ジュワイニーは法学、神学に関する多くの著作を残しました。彼の著作は、後世のイスラム法学や神学の発展に大きな影響を与え、現在でも研究されています。その影響は、ガザーリーをはじめとする多くの弟子を通して、広くイスラム世界に広がっていきました。

まとめ

アブル・マアーリー・ジュワイニーは、11世紀イスラム世界における重要な法学者であり、その思想は現代においても高く評価されています。聖典に基づいた厳密な論理と、神への深い信仰を結びつけた彼の学問は、イスラム法学史に大きな足跡を残しました。彼の著作は、イスラム思想を理解する上で重要な手がかりとなるでしょう。

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