エヌマ・エリシュ

『エヌマ・エリシュ』の概要

『エヌマ・エリシュ』は、バビロニア神話における創世記の叙事詩です。この作品は、古代メソポタミアにおける神々と人間の関係、そして神々の中でいかにマルドゥクが特別な地位を持つようになったかを示しています。バビロニア人の世界観や宗教的信念を理解する上で、重要な資料となっています。

発見と文献的背景

『エヌマ・エリシュ』は、アッシリアのニネヴェにあったアッシュールバニパルの図書館から発見されました。発見当初、多くの版に分かれており、これを修復したのはヘンリー・レイヤードです。物語は7つの粘土板にアッカド語で刻まれており、各板には115行から170行のテキストが含まれ、全体で約1,000行に達します。重要なのは、第5板の一部が欠落しているものの、全体としてはかなり原型を保っています。他にもバビロニアやアッシリアでさまざまな翻訳・複製が見つかっています。

この叙事詩は、紀元前18世紀に古代バビロニア王ハンムラビがメソポタミアを統一した時期を起源としていると考えられており、その後も何世紀にもわたって様々な形で受け継がれてきました。特に紀元前7世紀ごろの文献が重要視されています。

物語の冒頭

物語は「そのとき上に」という意味を持つインキピットから始まります。第1板では、真水を扱う神アプスー、塩水の女神ティアマト、霧を司る神ムンムなどの原始的な神々が登場します。双方の神は、多くの神々を誕生させましたが、神々の騒がしい行動に苛立ったアプスーは、彼らを滅ぼそうと画策します。しかし、ティアマトは彼の考えに反発するのです。

神々の対立とマルドゥクの登場

アプスーはとうとう計画を実行に移そうとしますが、それを察知したエアという神が彼を眠らせて殺し、ムンムを捕らえました。エアはアプスーの死体を基にして自らの神殿を建て、自身の子供マルドゥクを授かります。マルドゥクは他の神々の助けを受け、ティアマトに挑むことになります。

ティアマトとの壮絶な戦闘

ティアマトは復讐を誓い、力を増していく中、彼女の計画に加わった神々も力を振るうことになります。最終的にマルドゥクは、彼女との壮絶な戦闘を繰り広げ、見事勝利を収めます。彼はティアマトを打ち倒し、彼女の身体を二つに切り裂いて天地を創造するのです。この行為から、後の世界秩序が構築されていきます。

人間の創造と神々への奉仕

マルドゥクは戦いの後、ティアマトの配偶者であるキングーを殺し、彼の血から人間を創造しました。こうして人間は神々のための労働を担う存在として生成され、神々は労働から解放されることになります。神々は喜びの中、バビロンの築造に取り掛かり、短期間でそれを完成させました。

物語の結末

最終的にマルドゥクは神々によって称賛され、彼は最高神の地位を手に入れました。このことで、彼はメソポタミアの神々の王たるエンリルを上回る存在となったのです。一方で、ティアマトは原初の神としての位を失ってしまい、悲運な運命を辿ることになります。『エヌマ・エリシュ』は、神々や人間の起源、そして彼らの関係性を探求する詩として、古代メソポタミア文化における重要な位置を占めています。

出典

• - ミルチア・エリアーデ『世界宗教史 1』 筑摩書房
• - 杉勇『筑摩世界文学大系 1 古代オリエント集』

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