アプソゾア

アプソゾア（Apusozoa）

アプソゾアは、鞭毛を備えた微小な原生生物を含む分類群の名称です。その名は古代ギリシア語の「足のない動物」（ἄπους + ζῷον）に由来しており、初期の知見では移動器官である足が見えにくかったことにちなむと考えられます。一般的な大きさは5マイクロメートルから20マイクロメートル程度で、主に土壌中や水中などの湿潤な環境に広く生息しています。食性は細菌などの微生物を捕食する従属栄養性です。

アプソゾアの大きな形態的特徴の一つは、細胞の背面側に位置するテカと呼ばれる薄い膜状構造を持つことです。このテカの存在が、かつては分類上の重要な指標とされていました。また、細胞体の前方付近からは通常2本の鞭毛が伸びています。これらの鞭毛を使って独特の移動を行います。1本の鞭毛を前方に向けて伸ばし、もう1本の鞭毛を細胞の側面に沿って滑らせるように動かすことで水中や基質上を移動します。

ミトコンドリアの構造にも特徴が見られ、内部のクリステ（内膜のひだ状構造）が管状の形態をしています。このクリステの形は、かつては異なる生物群間の類縁関係を示す良い指標だと考えられていました。しかし、現在では近縁な生物群の間でもクリステの形態が異なる場合があることが明らかになっており、単独での分類指標としての信頼性は低下しています。

分類と構成の変遷

アプソゾアという分類群は1997年に提唱されましたが、その後に分類学的な研究が進むにつれて、含まれる生物の種類や範囲は大きく変動してきました。2013年に提案された分類体系では、アプソゾアは大きく二つの主要なグループに分けられるとされています。ただし、これらのグループ分けや構成要素についても、その後の研究によってさらなる検討が進められています。

かつては、アンキロモナス目、Diphylleida（コロディクティオンなど）、ヘミマスティクス目、マンタモナス属（Mantamonas）といった多様な原生生物がアプソゾアに含まれていました。しかし、分子情報に基づく系統解析が進展した結果、これらのグループの多くは現在、アプソゾアからは除外され、それぞれ独自の系統的位置を持つと考えられています。

真核生物における系統的位置

真核生物全体の系統樹におけるアプソゾアの位置づけは、近年の分子系統解析によって大きく見直されてきました。

初期の研究では、18S rRNA遺伝子の配列情報に基づき、有孔虫や放散虫を含むリザリアと呼ばれるグループに含められたこともありました。しかし、その後のより詳細な解析により、アプソゾアはリザリアとは近縁ではないという結論に至っています。

また、真核生物の初期系統を鞭毛の数によって二分する考え方として、鞭毛を2本以上持つバイコンタ（Bikonta）と、通常1本持つユニコンタ（Unikonta）という分類が提唱されていました。アプソゾアは通常2本の鞭毛を持つことから、かつてはこのバイコンタに含まれると考えられていました（ただし、かつて含まれていたヘミマスティクス目などは複数本の鞭毛を持ちました）。しかし、分子系統解析による裏付けが進むにつれて、アプソゾアは伝統的なユニコンタに含まれる生物群（後述のアモルフェアなど）の内側に位置することが明らかになりました。この発見は、鞭毛の数のみに基づいたバイコンタ・ユニコンタという名称による分類が、必ずしも系統関係を正確に反映していないことを示唆し、その後の真核生物の高次分類体系の見直しにつながりました。現在、アプソゾアと、かつてのユニコンタの主要な構成要素に対しては、アメーバ様の形態を示すものが多く含まれることから「アモルフェア（Amorphea）」という名称が代わりに用いられるようになっています。

さらに近年の分子系統解析研究では、アプソゾアはオピストコンタ（動物、菌類、襟鞭毛虫などを含むグループ）に最も近縁であることが強く示唆されています。これらの二つのグループは合わせて「オバゾア（Obazoa）」と呼ばれる大きな単系統群を形成すると考えられています。オバゾアはアモルフェアの一角を占める重要なグループです。ただし、アプソゾア自体が単系統群であるかについては議論があり、多くの場合、アプソゾアの中のアプソモナス目（Apusomonadida）がオピストコンタの姉妹群、すなわちオバゾアの中で最初に分岐した系統であるという解析結果が得られています。これは、かつてアプソゾアとしてまとめられていた他のグループが、アプソモナス目よりも早期に分岐した、あるいは別の系統に属している可能性を示唆しています。

その他、かつてアプソゾアに含まれていた生物群の中には、分子情報が乏しいなどの理由から、いまだに真核生物の系統樹における正確な位置が不明瞭なもの（オーファン系統）が多く存在します。一方で、一部の解析結果では、かつてアプソゾアに属したいくつかの系統が、アモルフェアの中において、オバゾアの姉妹群となる「CRuMs」と呼ばれる単系統群を形成するという仮説も提唱されており、アプソゾアおよびその近縁群の系統関係の解明は現在も進行中の課題となっています。

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