アマゾンカワイルカ

アマゾンカワイルカ

アマゾンカワイルカ（学名：Inia geoffrensis）は、哺乳綱偶蹄目（鯨偶蹄目）に属し、アマゾンカワイルカ科に分類されるユニークな鯨類です。アマゾンカワイルカ属は、現生では本種のみとする説と、ボリビアカワイルカ、アラグアイアカワイルカを含めた3種とする説があります。

分布

アマゾンカワイルカは、南アメリカのアマゾン川水系（オリノコ川を含む）に固有の種です。コビトイルカと生息域がほぼ同じですが、外見は大きく異なります。

形態

成体の体長は、オスで約2.8m、メスで約2.3mに達し、体重は100-160kg程度です。現生のカワイルカの中では最大の種類です。細長い口吻と、円錐形の歯が上下の顎に25-35対あります。前方の歯は鋭く、魚を捕らえるのに適しており、奥の歯は平坦で、カニやカメなどを砕くのに役立ちます。目は小さいながらも視力が良く、首の骨が固定されていないため、頭部を広範囲に動かすことができます。胸びれは大きく、背びれはなく、背中には三角形の瘤があります。体色はピンク色を中心に、茶色やクリーム色など様々です。

ボリビアカワイルカは、メスにおいて体長がやや短い、頭部が小さい、体型が丸みを帯びている、歯の本数が多いといった違いが見られます。

分類

以前はカワイルカ科に分類されていましたが、現在ではアマゾンカワイルカ科として独立しています。遺伝子的研究から、ヨウスコウカワイルカやラプラタカワイルカとの近縁性が示唆されています。

属名Iniaは、ボリビアの原住民であるグアラヨ族の呼称に由来します。

Riceの1998年の分類では1種3亜種でしたが、Mead & Brownell (2005)では以下のようになっています。

Inia geoffrensis geoffrensis (Amazon river dolphin)：エクアドル、ブラジル、ペルーのアマゾン川流域
Inia geoffrensis boliviensis (Bolivian river dolphin)：ボリビアのマデイラ川流域
Inia geoffrensis humboldtiana (Orinoco river dolphin)：コロンビア、ベネズエラのオリノコ川流域

2014年には、トカンチンス川とアラグアイア川に生息する個体群が、I. araguaiaensisとして新種記載されました。

分子系統解析ではI. araguaiaensisの単系統性が支持されていますが、頭骨の形態比較からは区別できないとする研究もあります。2023年時点では、I. g. geoffrensisとI. g. boliviensis*の2亜種とする説が有力です。

生態

アマゾンカワイルカは、川底に生息するカニや小魚、カメなどを食べます。通常は単独か2頭で行動し、稀に20頭程度の群れを形成することもあります。

人間との関係

網にかかった魚を奪うことがあり、ダム建設による生息地の分断化、水銀中毒、混獲、爆発物による漁法、駆除などによる影響が懸念されています。ワシントン条約附属書IIに掲載されています。

多くのカワイルカが絶滅の危機に瀕している中で、比較的安定して生息していますが、IUCNのレッドリストでは「脆弱」に分類されています。漁具を保護する目的で殺されることもありましたが、1988年以降はブラジル、ボリビア、ペルー、ベネズエラ、コロンビアの保護区で法的に禁止されています。

伝承

アマゾン川流域には、アマゾンカワイルカが人間の男性に化けて女性を妊娠させるという民間伝承があります。これは、オスの生殖器が人間の男性のそれに似ていることに由来するとも言われています。

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