アミュントール

アミュントール

ギリシャ神話に登場する人物、アミュントール（古希: Ἀμύντωρ, Amyntōr）は、テッサリアー地方のオルメニオンという町の王でした。彼の父はオルメノス王で、エウアイモーンという兄弟がいたと伝えられています。アミュントールには、息子ポイニクスと娘アステュダメイアがいました。彼の生涯、特に息子ポイニクスとの関係や最期については、異なる神話伝承が残されています。

ポイニクスとの確執

最もよく知られているのは、ホメーロスの叙事詩『イーリアス』における記述です。それによれば、アミュントールは非常に美しい妾を深く寵愛していました。正妻であるポイニクスの母は、この状況を大いに嘆き、息子ポイニクスに対して、父の寵愛する妾を誘惑するよう懇願します。母親の求めにポイニクスは渋々従いました。しかし、アミュントールはすぐにポイニクスと妾の間の関係を疑い、激しい怒りにとらわれます。彼は復讐の女神エリーニュスの名を呼び、ポイニクスに対して子に恵まれないという恐ろしい呪いをかけたのです。この父からの呪いによって、ポイニクスはアミュントールを殺害しようと決意しましたが、周囲の人々によって寸前で止められました。父殺しの衝動を抑えられたポイニクスは、結局故郷オルメニオンを追われ、プティーアの王ペーレウスのもとへ逃れて身を寄せることになります。

一方、アポロドーロスの伝える神話では、この確執の経緯が少し異なっています。アポロドーロスによると、アミュントールの妾はプティーアーという名でした。このプティーアーが、ポイニクスによって自分が辱められたとアミュントールに嘘の訴え（讒言）をしたのです。妾の言葉を信じたアミュントールは激怒し、ポイニクスを罰するために彼の両目を潰し、盲目にしてしまいました。ポイニクスはペーレウスに助けられ、賢明な半人半馬の賢者ケイローンのもとへ連れて行かれ、そこで視力を回復させることができたとされています。

ホメーロスとアポロドーロスの伝承では、ポイニクスがアミュントールによって呪われたり、盲目にされたりするなど、父子関係が決定的に悪化し、ポイニクスが故郷を追われるという結末は共通していますが、その原因や具体的な出来事には違いが見られます。

ヘーラクレースによる死

アミュントールは、英雄ヘーラクレースとの衝突によってその生涯を終えました。神話によると、ヘーラクレースがオルメニオンの地を通過しようとした際、アミュントールはこれを武力をもって妨害しようと試みました。この抵抗がヘーラクレースの怒りを買い、アミュントールは英雄の手によって討ち取られてしまいます。

また、アミュントールの娘アステュダメイアは、後にこのヘーラクレースとの間にクテーシッポスという息子をもうけたと伝えられています。これは、父を殺害した相手との間に子ができるという、ギリシャ神話によく見られる複雑な関係性の一例と言えるでしょう。

その他の同名人物

ギリシャ神話には、このオルメニオン王アミュントール以外にも、同じ名前を持つ人物が存在します。例えば、エジプト王アイギュプトスの50人の息子のうちの一人もアミュントールと呼ばれていました。彼は、伯父ダナオスの娘デーモディタースと結婚しましたが、他の多くの兄弟たちと同様に、結婚の夜に妻によって殺害されたと伝えられています。

テッサリアーの王アミュントールは、息子との悲劇的な確執や英雄との対立によって命を落とすなど、その生涯は波乱に満ちており、異なる神話伝承の中で語り継がれています。

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