アムダール

アムダール社：IBM互換メインフレームの挑戦者

1970年、かつてIBMで中心的役割を担ったジーン・アムダール博士によって、アムダール・コーポレーションは設立されました。米国カリフォルニア州サニーベールを拠点としたこの企業は、当時メインフレーム市場をほぼ独占していたIBMの大型コンピュータと互換性を持つ高性能なマシンの製造・販売を事業の柱としました。低価格でありながらIBM製マシンと同等以上の性能を持つ互換機（プラグコンパチブル機）を提供することで、「ビッグブルー」と呼ばれたIBMに対抗しようとしたのです。アムダールの登場は、顧客に新たな選択肢を与え、市場に競争をもたらしました。

黎明期と市場競争

アムダール社が市場に投入した最初の製品は、1975年に発表されたAmdahl 470/6でした。これは当時のIBM System/370ファミリーにおける最上位機種に対抗するモデルでした。しかし、IBMが突如としてDynamic Address Translation（DAT）機能を発表したことに対応するため、急遽仕様を変更したAmdahl 470V/6を改めて投入することになります。この470V/6は、ジーン・アムダール博士がIBM時代に設計に深く関わったSystem/360の後継であるSystem/370に対し、より低価格で優れた性能を実現していました。初期に製造された2台は、シリアル番号00001がNASAに、00002がミシガン大学にそれぞれ納入されています。

アムダール社はその後およそ四半世紀にわたり、ハイエンドサーバ市場でIBMと激しい競合を繰り広げ、一時は市場シェアの約24%を獲得するまでに成長しました。この成功の背景には、IBMが米国司法省との間で抱えていた独占禁止法に関する裁判がありました。この裁判の結果、IBMのメインフレーム用ソフトウェア、特にオペレーティングシステムが、アムダールのような互換機メーカーの顧客にも公平な条件で提供されることになった点が大きく寄与しました。

独自の技術革新

ジーン・アムダール博士は、1970年代後半から1980年代初頭にかけて、単一プロセッサの性能を限界まで引き上げることに注力しました。アムダール社の技術者は、富士通の回路設計者と連携し、高速なECLチップを効率的に冷却する独自の空冷方式を開発しました。これは、オートバイエンジンのようなフィン状のヒートシンクをチップ上に配置し、強力な送風によって冷却する画期的な技術でした。当時IBMのシステムが複雑で高コストな水冷方式を採用していたのに対し、アムダールは特許を取得したこの空冷技術により、完全に空冷式のメインフレームを実現しました。

システム構成にも独自性が見られました。例えば470システムでは、多数のチップを搭載した多層基板を垂直な柱状の構造体に配置し、システム内のコンポーネント間はマイクロ同軸ケーブルで直接接続され、一般的な中央処理装置で見られるバックプレーンは使用されませんでした。一方、580システムでは、多数のチップを搭載した大型のMulti-Chip Carriers (MCCs)を水平に配置し、これも複雑な物理配線システムによって接続されました。これらの設計は、信号の伝播遅延を最小限に抑え、15〜18ナノ秒といった非常に短いクロックサイクルでの高速動作を可能にしました。

事業の変遷と衰退

470Vシリーズには、性能を向上させたAmdahl 470V/5、/7、/8などの派生モデルが登場しました。特に1980年発表の470V/8は、大容量の高速キャッシュや、VM（仮想マシン）をハードウェアでサポートするMultiple Domain Facilityといった新機能を搭載しました。また、470V/5や/7では、顧客が必要な時に一時的に性能を向上させることができる可変クロック速度機能が提供され、使用した時間に応じて課金される方式は、管理者がコストを制御できる点で人気を博しました。

しかし、創業者のジーン・アムダール博士は、設立から10年後の1980年にアムダール社を去り、新たな事業を立ち上げます。博士の離脱後、筆頭株主であった富士通の影響力が徐々に強まります。1980年代半ばには、それまでこだわってきたシングルプロセッサ路線を転換し、マルチプロセッサシステムである5870や5880シリーズを投入しました。さらに、IBMの周辺機器市場への参入も試みましたが、社内に事業拡大に反対する勢力があったために十分な投資が得られず、当初は成功を収めたものの、主力事業から転換できずにコンピュータ業界が汎用マイクロプロセッサへとシフトしていく時代の波に取り残されることとなりました。

市場からの撤退とその後

アムダール社が最も勢いがあったのは、1990年代前半、IBMがCMOS技術への移行期に一時的な技術的遅れをとった時期です。この頃、アムダールは技術的な優位性を享受しました。しかし、IBMはその後CMOS技術を成熟させ、低コストで高性能なメインフレームを開発するようになります。決定打となったのは、2000年にIBMが64ビットアーキテクチャを採用したzSeries 900を発表したことです。当時アムダールが提供できたのは31ビットアーキテクチャの製品のみであり、10億ドル規模とされる64ビット対応システム開発への投資を断念したことで、そのハードウェア事業は事実上終焉を迎えました。1997年にはすでに富士通の完全子会社となっており、独立した企業としての歴史に幕を閉じていました。

その後、アムダール（富士通）の顧客は、使用している31ビットシステムから64ビットシステムへの移行を迫られることになります。IBMはz/OSの31ビット版のサポートを順次終了させ、zSeriesやSystem z BCといった後継機を低価格で提供することで、顧客の囲い込みを図りました。富士通/アムダールも、中古のIBMメインフレームを販売するなどして、顧客のIBM製品への移行を支援しました。一方、アムダールの一部エンジニアによるESA/390|ESA_390エミュレーションプロジェクトは、Platform Solutions Inc. (PSI) として独立し、Itaniumベースのハードウェア上でIBMメインフレーム環境を再現する試みを行いましたが、IBMとの法廷闘争の末、最終的にIBMに買収される形で終結しました。

現在、富士通は日本国内でGS21/PRIMEFORCEというメインフレーム製品ラインを維持しており、これはアムダールの技術も一部利用したESA/390|ESA_390互換アーキテクチャに基づいています。しかし、IBMの最新アーキテクチャであるz/Architectureへの対応予定はなく、その顧客層は独自の市場に留まっています。アムダールという企業は消滅しましたが、IBM互換メインフレーム市場におけるその挑戦と技術革新の歴史は、コンピュータ業界の大きな出来事として記憶されています。

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