アメリカの環境と環境政策

アメリカの環境と環境政策

アメリカ合衆国の環境政策は、時代とともに変化してきました。初期は自然保護が中心でしたが、工業化の進展に伴い、大気汚染や水質汚染といった問題が深刻化。その後、地球温暖化という新たな課題が浮上し、環境政策はより複雑化しています。

第二次世界大戦終結まで

初期の環境政策は、自然保護を目的としたものが中心でした。

1918年：渡り鳥条約法
渡り鳥の保護を目的としたこの法律は、鳥とその卵、羽、巣の狩猟や捕獲、販売を禁止しました。

1924年：クラーク＝マクナリー法
森林と草原の保護・育成を目的とし、土地の買収、植林などを推進しました。

冷戦終結まで

冷戦期に入ると、環境問題はより複雑化し、国際的な協力も必要となりました。

1959年：南極条約署名
南極の平和利用、科学的調査の自由、領土権主張の凍結を規定しました。

1963年：大気浄化法
工場や発電所からの排気ガスを規制し、大気汚染対策を始めました。

1964年：自然原野法
自然原野を自然保護区として管理する制度を確立しました。

1970年：国家環境政策法
環境と生態系への配慮を義務付け、環境影響評価の基礎となりました。

1970年：海洋大気局（NOAA）設立
海洋と大気の状態を観測し、海洋資源の保護を目的としました。

1970年：環境保護庁（EPA）設立
環境保護に関する政策立案・実施を担う機関が設立されました。

1972年：水質清浄法
産業・生活廃棄物による水質汚染を規制し、水環境の改善を目指しました。

1972年：ラムサール条約署名
湿地の保護を目的とした国際条約に署名しました。

1972年：海洋哺乳動物保護法
クジラやイルカなどの海洋哺乳動物の捕獲を規制しました。

1973年：ワシントン条約署名・批准
絶滅危惧種の国際取引を規制する条約に署名・批准しました。

1973年：包括的絶滅危惧種法
絶滅危惧種の保護と回復のための制度を確立しました。

1974年：安全な飲料水法
飲料水の水質基準を定め、安全な水の供給を確保しました。

1976年：国有森林管理法
国有森林の資源管理計画を義務付け、持続可能な森林経営を目指しました。

1976年：有毒物質管理法
化学物質による健康・環境被害を防ぐため、新規化学物質の規制を始めました。

1977年：水質浄化法改正
産業廃棄物の排出基準を強化しました。

1982年：海洋法に関する国際連合条約(未署名)
領海、排他的経済水域などを規定する国際条約ですが、アメリカは署名しませんでした。

1985年：オゾン層保護のためのウィーン条約署名
オゾン層保護のための国際協力に合意しました。

1986年：オゾン層保護のためのウィーン条約批准
ウィーン条約を批准しました。

1986年：ラムサール条約批准
ラムサール条約を批准しました。

1987年：モントリオール議定書署名
オゾン層破壊物質の規制を規定する議定書に署名しました。

1988年：モントリオール議定書批准
モントリオール議定書を批准しました。

冷戦終結後

冷戦終結後、地球温暖化が深刻な問題として認識され、国際的な枠組み作りが進められました。

1990年：バーゼル条約署名
有害廃棄物の国際移動を規制する条約に署名しました。（未批准）

1990年：大気浄化法改正
大気汚染物質の排出規制を強化しました。

1991年：ロンドン条項批准
オゾン層保護のための国際協力を規定するウィーン条約のロンドン修正条項を批准しました。

1992年：気候変動枠組条約署名・批准
温室効果ガス削減のための国際的な枠組みに署名・批准しました。

1993年：生物多様性条約署名
生物多様性の保全を目的とした条約に署名しました。（未批准）

1994年：コペンハーゲン条項批准
オゾン層保護のための国際協力を規定するウィーン条約のコペンハーゲン修正条項を批准しました。

1994年：砂漠化対処条約署名
砂漠化の進行を抑制する国際的な取り組みに署名しました。

1998年：ロッテルダム条約署名
有害化学物質の国際取引を規制する条約に署名しました。（未批准）

1998年：京都議定書署名
気候変動枠組条約の京都議定書に署名しました。（後に撤回）

1999年：海洋法に関する国際連合条約の魚資源管理協定を批准
海洋資源の保護・管理に関する協定を批准しました。

2000年：砂漠化対処条約批准
砂漠化対処条約を批准しました。

2000年：海洋法の制定
海洋資源の管理や海洋汚染の防止を目的とする法律を制定しました。

2001年：京都議定書から脱退
地球温暖化対策に関する国際的な枠組みである京都議定書から脱退しました。

2001年：残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約に署名
残留性有機汚染物質を規制するストックホルム条約に署名しました。（未批准）

2003年：モントリオール条項批准
オゾン層保護のための国際協力を規定するウィーン条約のモントリオール修正条項を批准しました。

2003年：北京条項批准
オゾン層保護のための国際協力を規定するウィーン条約の北京修正条項を批准しました。

2004年：たばこ規制枠組条約に署名
喫煙による健康被害を予防する目的で、たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約に署名しました。（未批准）

2005年：エネルギー政策法
再生可能エネルギーの利用促進、エネルギー効率の改善、温室効果ガス削減を目指しました。

2007年：CO2排出規制義務付けの判決
最高裁が環境保護庁に温室効果ガス規制を義務付けました。

2010年：ポスト[[京都議定書]]のカンクン合意
京都議定書以降の温室効果ガス削減目標について合意しました。

2015年：クリーンパワープラン（CPP）策定
既存の火力発電所からの二酸化炭素排出量削減を目標とした政策を策定しました。（後に廃止）

2016年：パリ協定批准
気候変動に関する国際的な枠組みであるパリ協定を批准しました。

2017年：クリーンパワープラン（CPP）廃止
前政権が策定したクリーンパワープランを廃止しました。

2019年：アフォーダブル・クリーン・エネルギー（ACE）ルール策定
CPPに代わる、発電所のコストパフォーマンスを考慮した新たな規制ルールを策定しました。

2020年：パリ協定から離脱
気候変動に関する国際的な枠組みであるパリ協定から離脱しました。

2021年：環境関連の大統領令署名
パリ協定への復帰、キーストーンXLパイプラインの取り消しなどを含む大統領令に署名しました。

2021年：パリ協定離脱から約3か月ぶりに復帰
パリ協定への復帰を正式に表明しました。

アメリカの環境と環境政策の傾向

アメリカの環境政策は、その時々の政権や議会の構成によって大きく左右されます。しかし、近年では、地球温暖化問題への関心が高まり、環境保護への取り組みも進んでいます。

環境問題と軍事活動

アメリカの軍事活動が環境に与えた影響も無視できません。核兵器の使用や枯葉剤の散布は、放射線による健康被害や遺伝子変異、生態系破壊を引き起こしました。また、劣化ウラン弾の使用は、土壌や地下水の汚染を引き起こす可能性が指摘されています。

地球温暖化対策

地球温暖化対策については、1963年の大気浄化法以降、段階的に温室効果ガスの排出規制を強化してきました。また、2005年のエネルギー政策法では、石油依存からの脱却を目指し、再生可能エネルギーへの転換を促進しています。

バイオエタノール生産

バイオエタノールの生産量は増加しており、世界最大の生産国となっています。しかし、その一方で、食料価格の高騰や森林伐採といった問題も引き起こしています。

環境保護に対する意識の変化

アルバート・ゴア元副大統領の著書や映画『不都合な真実』などを通して、地球温暖化問題への危機感が社会全体に広がりました。しかし、世論調査では、地球温暖化に対する懐疑的な意見も依然として存在しています。

今後の課題

アメリカの環境政策は、環境保護と経済発展の両立という難しい課題に直面しています。再生可能エネルギーへの転換、温室効果ガス排出量の削減、生物多様性の保全など、解決すべき課題は多く存在します。これらの課題に取り組むためには、政府・議会だけでなく、国民一人ひとりの意識と行動が不可欠です。

政党の環境政策に関する傾向

アメリカの環境政策は、民主党と共和党の間で意見の相違が見られます。しかし、どちらの政党が政権を担っても、環境保護を全く無視することはできません。環境保護を推進した実績も、無視した実績も両方あります。環境政策に関する本質的な差異はないと言えるでしょう。

参考文献

この文章の作成にあたり、以下の参考文献を参考にしました。

環境問題全般に関する書籍
エネルギー・気候変動に関する書籍
有害物質・廃棄物浄化に関する書籍
生物多様性に関する書籍
バイオテクノロジーに関する書籍
環境保護に関する国際条約に関する情報
アメリカ合衆国環境保護庁などの政府機関のウェブサイト
イェール大学などの研究機関の論文や調査報告書

関連項目

環境問題
地球温暖化
再生可能エネルギー
生物多様性
アメリカ合衆国
アメリカ合衆国の政治

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