アモーリー1世 (エルサレム王)

アモーリー1世の生涯：エジプト遠征と野望

アモーリー1世（1136年 - 1174年）は、エルサレム王国の第6代国王として知られています。兄であるボードゥアン3世の死後、26歳で王位を継承しました。彼はフルクとメリザンド夫妻の息子であり、後にエルサレム王となるボードゥアン4世の父でもあります。アモーリー1世の治世は、エジプトへの度重なる遠征と、複雑な政治的駆け引きによって特徴づけられます。

即位とエジプトへの野望

アモーリー1世は、兄の死後に王位を継承すると、エジプトの征服を強く望みました。当時、エジプトを支配していたファーティマ朝は、宰相たちの権力争いで混乱しており、エルサレム王国に対して貢納金を支払っていました。この状況に乗じ、アモーリー1世は貢納金の未払いを口実に、エジプトへの侵攻を開始します。

第一次エジプト遠征（1163年）

1163年、アモーリー1世は6万ディナールの貢納金が未払いであることを理由に、エジプトへ侵攻しました。シナイ半島を横断したエルサレム軍は、ナイル川沿いのビルバイスを包囲しましたが、ナイル川の増水期を利用した水攻めにあい、撤退を余儀なくされました。この遠征は失敗に終わりました。

第二次エジプト遠征（1164年）

第一次遠征後、アモーリー1世のエジプトへの野心を知ったヌールッディーンも、エジプトを支配下に置こうと動き出しました。ヌールッディーンは配下のシールクーフを派遣し、エジプトに干渉しました。シールクーフはシャーワルを伴いエジプトに入り、ビルバイスを奪還し、カイロに迫りました。混乱の中でシャーワルは宰相に復帰しましたが、ヌールッディーンとの約束を破り、シールクーフに退去を求めました。その後、シャーワルはアモーリー1世に援軍を要請し、アモーリー1世は再びエジプトへ遠征しました。しかし、ヌールッディーンがエルサレム王国を脅かしたため、アモーリー1世は撤退を余儀なくされました。最終的に、アモーリー1世とシールクーフは同時にエジプトから撤退することで合意しました。

第三次エジプト遠征（1167年）

シャーワルはシールクーフの再来を恐れてアモーリー1世と相互援助条約を結びました。しかし、シールクーフは再びエジプト侵攻の準備を開始しました。これを受け、アモーリー1世は再びエジプトへ遠征し、シールクーフと対峙しました。シールクーフはカイロの南に陣を敷き、アモーリー1世はシャーワルと連合してシールクーフを追撃しました。しかし、戦闘で敗北し、アモーリー1世はカイロに撤退しました。シールクーフがアレクサンドリアを占拠したことを知ったアモーリー1世は、アレクサンドリアを包囲しましたが、最終的にシールクーフと和議を結び、両軍はエジプトから撤退しました。この遠征でエルサレム王国はエジプトとの同盟と朝貢を得ましたが、アモーリー1世は満足していませんでした。

第四次エジプト遠征（1168年）

10万ディナールの貢納と駐留部隊によって、エジプトでは反フランク感情が高まりました。アモーリー1世は再びエジプトを征服しようと遠征を敢行しましたが、テンプル騎士団は反対しました。エルサレム軍はビルバイスで虐殺を行い、これが原因でカイロでは徹底抗戦の姿勢が決定的になりました。アモーリー1世はカイロの旧市街が炎上するのを見て撤退を決意し、この遠征は失敗に終わりました。この遠征の結果、シャーワルは殺害され、サラディンがエジプトの宰相となりました。また、アモーリー1世はエジプトとの同盟と朝貢という、前回までの成果を全て失いました。

第五次エジプト遠征と死（1169年）

アモーリー1世は1169年に最後の遠征を行い、ダミエッタを奪おうとしましたが、サラディンに撃退されました。1174年、シチリア王国の支援を受けてのエジプト遠征を準備中に赤痢で38歳で死去しました。王位は13歳の息子ボードゥアン4世が引き継ぎました。

人物像

アモーリー1世は、アラブ人からは「モッリ」と呼ばれていました。彼は「御しがたい野心の持ち主」であり、その野望はエジプト征服への執念となって表れていました。容姿については、長身で豊かな髪を持っていましたが、肩幅が狭く、吃音があり、威厳に欠けていたと評されています。しかし、彼は「宗教上の勉学に励み、正義に心を配る、真面目で、敬虔な人物であるとのイメージを広めようとしていた」とも言われています。

子女

アモーリー1世は、アニェス・ド・クルトネーと結婚しましたが、後に婚姻は無効とされました。彼らの間には、エルサレム女王となったシビーユと、エルサレム王となったボードゥアン4世がいました。その後、アモーリー1世はマリア・コムネナと再婚し、エルサレム女王となるイザベル1世をもうけました。

アモーリー1世は、その野心とエジプト遠征を通じて、エルサレム王国の歴史に大きな足跡を残しました。彼の死後、エルサレム王国はさらなる試練に直面することになります。

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