ディナール

ディナール：歴史と変遷

ディナール（dinar, دينار）は、アラブ地域をはじめとする多くの国々で用いられている通貨単位です。アラビア語では「ディーナール」と発音されます。この名称は、古代ローマ帝国の銀貨であるデナリウスに由来しており、その歴史は古く、多くの変遷を経てきました。

各国のディナール

現在、ディナールは多くの国で独自の通貨として発行されています。しかし、それぞれが独立して発行しているため、価値はそれぞれ異なります。

現行のディナール

アルジェリア・ディナール
バーレーン・ディナール
イラク・ディナール
ヨルダン・ディナール
クウェート・ディナール
リビア・ディナール
マケドニア・デナール（※ディナールと同語源）
セルビア・ディナール
チュニジア・ディナール

過去に存在したディナール

かつて存在したディナールとしては、以下のようなものがあります。

アブダビ・ディナール（アラブ首長国連邦）
* 南イエメン・ディナール

ISILによるディナール

2014年11月には、ISIL（イスラミックステート）が支配地域で金貨のディナールを発行し、ラッカなどで使用されていました。

補助通貨としてのディナール

イランでは、1イラン・リヤル = 100ディナールという補助通貨が存在しますが、リヤルの価値が低下しているため、実際にはディナールはほとんど流通していません。

湾岸協力会議での共通通貨構想

湾岸協力会議（GCC）に加盟する6か国のうち、サウジアラビア、クウェート、カタール、バーレーンの4か国が、共通通貨「湾岸ディナール」（名称は未定）の導入を検討しています。

ディナールの歴史

ディナールの起源は、693年にウマイヤ朝のカリフ、アブドゥルマリクがダマスカスで打刻させたイスラーム帝国初の金貨に遡ります。当初はディンナールと呼ばれ、主に旧東ローマ帝国領で流通していました。それまでは、東ローマ帝国が鋳造したノミスマ金貨が流通していました。

8世紀半ばに成立したアッバース朝の時代になると、ディルハム銀貨が流通していた旧サーサーン朝ペルシア領でもディナールが流通するようになり、9世紀には金銀二本位制へと移行しました。主な金の産出地としては、サハラ砂漠南のガーナ王国や、エジプト南のヌビア（現在のスーダン）などが挙げられます。ガーナ王国の金は、ムスリム商人によって岩塩と交換され、サハラ交易で重要な役割を果たしました。

当初、ディナールとディルハムの法定換算比率は1ディナール=20ディルハムでしたが、時代や地域によって変動しました。アッバース朝5代カリフのハールーン・アッ＝ラシード時代には1ディナール：22ディルハムとなり、さらに1ディナール=30ディルハムとなった時代もありました。

エジプトのトゥールーン朝で鋳造されたディナール金貨は、その純度の高さで知られています。しかし、10世紀中頃から金の供給が減少すると、12〜13世紀にはシリア以東ではディナール金貨は打刻されなくなり、予算や大きな金額の計算にはディルハム銀貨が用いられるようになりました。しかし、西スーダンからの金が供給されていたファーティマ朝、ムラービト朝、アイユーブ朝、マムルーク朝では、15世紀初頭まで高品質のディナール金貨が打刻され、地中海交易で重要な役割を果たしました。

その後、イタリア諸都市の金貨（デュカティやフィオリーニなど）に押され、ディナール金貨の流通は次第に減少しました。1425年には、マムルーク朝のスルタン・アシュラフ・バルスバーイが新ディナール（アシュラフィー）を打刻しました。

ディナールは、その長い歴史の中で、政治や経済の変遷とともに、その価値や役割を変えてきました。現在でも、多くの国で重要な通貨として使用され続けています。

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