アラベラ・ステュアート
レディ・アラベラ・ステュアートは、16世紀後半から17世紀初頭にかけてのイングランドにおいて、たびたび国王の後継者候補としてその名が挙げられた重要な女性貴族です。1575年に生まれた彼女は、スコットランド王家であるステュアート家の流れを汲むチャールズ・ステュアートを父とし、イングランドの名家キャヴェンディッシュ家のエリザベスを母として生まれました。
彼女の血筋は非常に尊く、特に父方の祖母レディ・マーガレット・ダグラスを通じて、イングランド王ヘンリー7世の血を引いていました。マーガレット・ダグラスは、ヘンリー7世の娘であり、スコットランド王ジェームズ4世の未亡人となったマーガレット・テューダーの娘にあたります。このため、アラベラはヘンリー7世の玄孫にあたり、彼女自身の意思に関わらず、イングランド王位に対する正統な請求権を持つ有力な立場に置かれました。また、彼女の父チャールズ・ステュアートは、後にイングランド王ジェームズ1世となるスコットランド王ジェームズ6世の叔父にあたり、アラベラはジェームズ1世の父方の従兄妹という関係でした。母方の祖母は、富と才覚で知られる「ハードウィックのベス」ことエリザベス・キャヴェンディッシュでした。
アラベラは生後間もなく父を亡くし、7歳で母も失って孤児となります。その後は、母方の祖母「ハードウィックのベス」のもとで養育されました。ダービーシャーにある祖母の広壮な屋敷ハードウィック・ホールで、外部から隔離されるようにして幼少期の多くを過ごしましたが、時折ロンドンや宮廷を訪れる機会もありました。彼女の教育は熱心に行われ、成人後も学び続け、複数の言語を習得したほか、リュート、ヴァイオル、ヴァージナルといった楽器の演奏にも長けていました。彼女の教育には、詩人クリストファー・マーロウではないかと推測される人物が関わっていた可能性も指摘されています。
イングランド女王エリザベス1世の治世下、アラベラは有力な王位継承候補の一人と見なされていましたが、時の権力者である大蔵卿バーリー卿ウィリアム・セシルとその息子ロバート・セシルは、次第に彼女よりもスコットランド王ジェームズ6世への支持を強めていきました。1603年にエリザベス1世が崩御し、ジェームズ6世がジェームズ1世としてイングランド王位に就いた後、アラベラを王位に就けようとする陰謀（メイン陰謀事件）が持ち上がったとされますが、彼女自身はこれに関与せず、国王に報告することで忠誠を示しました。
王位継承権を持つがゆえに、アラベラの結婚は常に国家的な関心事であり、様々な候補が浮上してはその度に政治的な駆け引きや問題が起こりました。スコットランド王家や、大陸のカトリック勢力に連なる人物との縁談も検討されましたが、いずれも政治的な理由やエリザベス1世の反対によって実現しませんでした。エリザベス1世晩年には、有力貴族シーモア家の一員エドワード・シーモアとの結婚の噂が立ち、女王の不興を買う出来事もありましたが、アラベラは否定しています。1604年にはポーランド王ジグムント3世からの求婚も、イングランド側によって断られました。
そして1610年、アラベラは自身と同じくヘンリー7世の血を引き、王位継承順位を持つウィリアム・シーモア卿と秘密裏に結婚するという重大な決断を下します。ウィリアムもまた、ジェーン・グレイの妹キャサリン・グレイの孫にあたり、ヘンリー7世の来孫でした。国王ジェームズ1世は、この結婚が王位を脅かす試みであると疑念を抱き、激怒しました。国王の許可を得ない結婚であったため、ジェームズ1世はアラベラを監禁し、ウィリアムをロンドン塔に投獄しました。二人は離ればなれになりながらも手紙で連絡を取り合っていましたが、これが国王に知られたことでアラベラはさらに遠方のダラムへ移送されることになります。彼女は病を装って出発を延期し、その間にウィリアムと共に脱出を企てました。アラベラは男装して監禁場所から逃れ、ウィリアムもロンドン塔を脱獄しますが、二人は海路で合流することができませんでした。アラベラを乗せた船は追っ手に捕らえられ、フランス上陸寸前で引き戻され、ロンドン塔へ再び投獄されました。夫ウィリアムは大陸へ逃れることに成功しましたが、アラベラが再び彼に会うことは叶いませんでした。彼女の逃亡劇は、ウィリアム・シェイクスピアの戯曲『シンベリン』に登場する男装のヒロイン、イモージェンのモデルになったという説もあります。
ロンドン塔での幽閉生活はアラベラの心身を深く蝕み、食を拒むようになった彼女は次第に衰弱していきました。1615年9月25日、波乱に満ちたその生涯を閉じました。彼女はウェストミンスター寺院に静かに葬られましたが、19世紀に偶然にも、スコットランド女王メアリーの棺のそばで、彼女の鉛棺が発見されています。
アラベラが残した百通以上の手紙は、当時の貴族社会や彼女の内面を知る貴重な資料として、研究者によって編纂・出版されています。彼女の悲劇的な運命は、後世の作家や詩人にも影響を与え、ドリス・レスリーやサラ・グリストウッドによる伝記、エミリア・ラニエやフェリシア・ヘマンズの詩など、数々の文学作品の題材となりました。
彼女の血筋は非常に尊く、特に父方の祖母レディ・マーガレット・ダグラスを通じて、イングランド王ヘンリー7世の血を引いていました。マーガレット・ダグラスは、ヘンリー7世の娘であり、スコットランド王ジェームズ4世の未亡人となったマーガレット・テューダーの娘にあたります。このため、アラベラはヘンリー7世の玄孫にあたり、彼女自身の意思に関わらず、イングランド王位に対する正統な請求権を持つ有力な立場に置かれました。また、彼女の父チャールズ・ステュアートは、後にイングランド王ジェームズ1世となるスコットランド王ジェームズ6世の叔父にあたり、アラベラはジェームズ1世の父方の従兄妹という関係でした。母方の祖母は、富と才覚で知られる「ハードウィックのベス」ことエリザベス・キャヴェンディッシュでした。
アラベラは生後間もなく父を亡くし、7歳で母も失って孤児となります。その後は、母方の祖母「ハードウィックのベス」のもとで養育されました。ダービーシャーにある祖母の広壮な屋敷ハードウィック・ホールで、外部から隔離されるようにして幼少期の多くを過ごしましたが、時折ロンドンや宮廷を訪れる機会もありました。彼女の教育は熱心に行われ、成人後も学び続け、複数の言語を習得したほか、リュート、ヴァイオル、ヴァージナルといった楽器の演奏にも長けていました。彼女の教育には、詩人クリストファー・マーロウではないかと推測される人物が関わっていた可能性も指摘されています。
イングランド女王エリザベス1世の治世下、アラベラは有力な王位継承候補の一人と見なされていましたが、時の権力者である大蔵卿バーリー卿ウィリアム・セシルとその息子ロバート・セシルは、次第に彼女よりもスコットランド王ジェームズ6世への支持を強めていきました。1603年にエリザベス1世が崩御し、ジェームズ6世がジェームズ1世としてイングランド王位に就いた後、アラベラを王位に就けようとする陰謀（メイン陰謀事件）が持ち上がったとされますが、彼女自身はこれに関与せず、国王に報告することで忠誠を示しました。
王位継承権を持つがゆえに、アラベラの結婚は常に国家的な関心事であり、様々な候補が浮上してはその度に政治的な駆け引きや問題が起こりました。スコットランド王家や、大陸のカトリック勢力に連なる人物との縁談も検討されましたが、いずれも政治的な理由やエリザベス1世の反対によって実現しませんでした。エリザベス1世晩年には、有力貴族シーモア家の一員エドワード・シーモアとの結婚の噂が立ち、女王の不興を買う出来事もありましたが、アラベラは否定しています。1604年にはポーランド王ジグムント3世からの求婚も、イングランド側によって断られました。
そして1610年、アラベラは自身と同じくヘンリー7世の血を引き、王位継承順位を持つウィリアム・シーモア卿と秘密裏に結婚するという重大な決断を下します。ウィリアムもまた、ジェーン・グレイの妹キャサリン・グレイの孫にあたり、ヘンリー7世の来孫でした。国王ジェームズ1世は、この結婚が王位を脅かす試みであると疑念を抱き、激怒しました。国王の許可を得ない結婚であったため、ジェームズ1世はアラベラを監禁し、ウィリアムをロンドン塔に投獄しました。二人は離ればなれになりながらも手紙で連絡を取り合っていましたが、これが国王に知られたことでアラベラはさらに遠方のダラムへ移送されることになります。彼女は病を装って出発を延期し、その間にウィリアムと共に脱出を企てました。アラベラは男装して監禁場所から逃れ、ウィリアムもロンドン塔を脱獄しますが、二人は海路で合流することができませんでした。アラベラを乗せた船は追っ手に捕らえられ、フランス上陸寸前で引き戻され、ロンドン塔へ再び投獄されました。夫ウィリアムは大陸へ逃れることに成功しましたが、アラベラが再び彼に会うことは叶いませんでした。彼女の逃亡劇は、ウィリアム・シェイクスピアの戯曲『シンベリン』に登場する男装のヒロイン、イモージェンのモデルになったという説もあります。
ロンドン塔での幽閉生活はアラベラの心身を深く蝕み、食を拒むようになった彼女は次第に衰弱していきました。1615年9月25日、波乱に満ちたその生涯を閉じました。彼女はウェストミンスター寺院に静かに葬られましたが、19世紀に偶然にも、スコットランド女王メアリーの棺のそばで、彼女の鉛棺が発見されています。
アラベラが残した百通以上の手紙は、当時の貴族社会や彼女の内面を知る貴重な資料として、研究者によって編纂・出版されています。彼女の悲劇的な運命は、後世の作家や詩人にも影響を与え、ドリス・レスリーやサラ・グリストウッドによる伝記、エミリア・ラニエやフェリシア・ヘマンズの詩など、数々の文学作品の題材となりました。
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