グループ5

グループ5：スイス映画の革新を牽引した映画製作集団

グループ5（Le Groupe 5）は、1960年代後半から1970年代にかけて、スイス映画界に大きな足跡を残した映画製作会社です。アラン・タネール、クロード・ゴレッタを中心に、ジャン＝ジャック・ラグランジュ、ジャン＝ルイ・ロワ、ミシェル・ステーといった、当時ジュネーブを拠点に活動していた若手映画監督たちが集まり、1968年に設立されました。

設立前夜：映画への情熱

グループ5のメンバーたちは、それぞれが映画への強い情熱を持っていました。タネールとゴレッタは、ジュネーブ大学時代に知り合い、シネクラブを設立して上映活動を行っていました。1955年にはロンドンに渡り、タネールは英国映画協会でアーカイブ関連の仕事をし、ゴレッタは講座に通っていました。そこで彼らは、リンゼイ・アンダーソン監督らの「フリー・シネマ」運動に触発され、短編ドキュメンタリー『ピカデリーの夜』を共同で制作。この作品がヴェネツィア国際映画祭で実験映画賞を受賞し、国際的な注目を集めました。

ゴレッタはその後ジュネーブに戻り、テレヴィジオン・スイス・ロマンド（TSR）でドキュメンタリー番組のプロデューサーとして活躍。タネールもパリでヌーヴェルヴァーグの映画人たちと交流した後、ジュネーブに戻り、TSRでドキュメンタリー番組の演出を手がけるようになりました。彼らは、TSRで出会ったラグランジュ、ロワ、ステーらと共に、映画製作への思いを共有していきました。

ラグランジュは、TSRの開局準備に携わった演出家で、多くの番組を手がけていました。ステーは、作家、作曲家、通訳としても活動していましたが、TSRで演出助手となり、ゴレッタと共同で短編映画の脚本を執筆。1966年には長編映画監督としてデビューを果たしました。ロワは、TSRで撮影や編集の仕事を経て、1963年に演出家となり、長編劇映画『シャンディゴールの見知らぬ男』で国際的な評価を得ました。

グループ5の誕生と活動

こうして、タネール、ゴレッタ、ラグランジュ、ロワ、ステーの5人は、それぞれの才能と経験を持ち寄り、グループ5を設立しました。彼らは、「フリー・シネマ」の影響を受けつつ、それぞれの個性を生かした作品を制作しました。タネールの長編デビュー作『どうなってもシャルル』は、ロカルノ国際映画祭で金豹賞を受賞。ゴレッタの『Le Fou』はスイス批評家連盟賞を受賞。ロワの『Black Out』はベルリン国際映画祭に出品されるなど、グループ5の作品は国際的な映画祭で高い評価を得ました。

1971年にはラグランジュが脱退し、イヴ・イェルサンが加入。1972年には、ステー監督の『測量師』がカンヌ国際映画祭に出品され、タネールが審査員を務めるという状況も生まれました。また、タネール監督の『アフリカからの帰還』は、ベルリン国際映画祭でインターフィルム賞とOCIC賞を受賞。ゴレッタ監督の『招待』はカンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞するなど、グループ5の勢いは止まりませんでした。

しかし、1970年代に入ると、メンバーそれぞれの活動が多岐にわたり、グループとしての活動は徐々に縮小していきました。ロワはドキュメンタリー制作に専念し、ステーはテレビ映画やドキュメンタリー映画の制作が増え、イェルサンもテレビ演出家としての仕事が多くなりました。タネールやゴレッタの作品にも外部のプロデューサーが関わるようになり、グループ5は、その役割を終えていくことになります。

スイス映画の新たな潮流

グループ5は、短期間の活動ながら、スイス映画界に大きな影響を与えました。彼らの作品は、国際的な評価を得るだけでなく、その後のスイス映画の発展に大きな役割を果たしました。彼らの活動は、フレディ・ムーラー、ダニエル・シュミットらドイツ語圏の映画監督たちと共に、「ヌーヴォー・シネマ・スイス」と呼ばれる新たな潮流を生み出し、1970年代のスイス映画を活気づけました。1979年には、ジャン＝リュック・ゴダール、アンヌ＝マリー・ミエヴィルがレマン湖畔に拠点を移し、スイス映画の新たな時代を切り開いていきました。

グループ5のフィルモグラフィー

『どうなってもシャルル』(1969年) アラン・タネール監督
『Le Fou』(1970年) クロード・ゴレッタ監督
『Black Out』(1971年) ジャン＝ルイ・ロワ監督
『James ou pas（ジェームズか否か）』(1970年) ミシェル・ステー監督
『Les Arpenteurs（測量士）』(1971-72年) ミシェル・ステー監督
『アフリカからの帰還』(1973年) アラン・タネール監督
『招待』(1973年) クロード・ゴレッタ監督

関連事項

ヌーヴェルヴァーグ
フリー・シネマ
ニュー・ジャーマン・シネマ
* テレヴィジオン・スイス・ロマンド

グループ5は、スイス映画史において、その革新的な活動と作品によって、重要な位置を占めています。

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