アリスティド・マイヨール

アリスティド・マイヨール：彫刻に捧げた人生

アリスティド・マイヨール (1861-1944) は、20世紀前半を代表するフランスの彫刻家です。オーギュスト・ロダン、アントワーヌ・ブールデルと並び称される近代彫刻の巨匠の一人でありながら、彼の芸術的キャリアは他の二人とは異なる軌跡を辿りました。画家として出発し、やがて彫刻に転向したマイヨールは、40歳を過ぎてから本格的に彫刻に取り組み始めました。

画家から彫刻家へ

1861年、フランス南部のバニュルス＝シュル＝メールに生まれたマイヨールは、当初は画家を目指していました。1882年にパリに出て国立美術学校への入学を試みましたが、当初は入学を許されず、1885年にようやく入学が許可されます。しかし、アカデミズムに傾倒した教授陣の授業に失望し、ナビ派の画家たちと交流を深め、独自の芸術性を模索しました。この頃には、同い年の彫刻家アントワーヌ・ブールデルとも親交を結び、ポール・ゴーギャンの影響も受けていました。

1893年には故郷に戻り、タペストリー工房を開設。そこで助手として雇ったクッティルド・ナルシスと結婚しました。1895年頃から木彫やテラコッタによる彫刻の小品制作を始めますが、1900年頃にはタペストリー制作による眼精疲労から絵画を断念し、彫刻に専念するようになります。

女性像への執着

1902年、美術商アンブロワーズ・ヴォラールの店で初の彫刻個展を開催。ロダンから絶賛された「レダ」を含む作品は高い評価を受け、マイヨールは彫刻家としての道を歩み始めます。40歳を超えてからの転身でしたが、彼の彫刻家としてのキャリアは目覚ましいものとなりました。1905年のサロン・ドートンヌに出展した大作「地中海」が絶賛され、彫刻家としての地位を確立しました。同年にはフォーヴィズムの中心人物であるアンリ・マティスとも知り合っています。

マイヨールは、ロダンやブールデルとは異なる道を歩みました。ロダンが文学的な作品を多く制作し、ブールデルがモニュメンタルな男性像を好んだのに対し、マイヨールはほぼ生涯に渡り女性像を主題として制作を続けました。彼の女性像は、物語性や寓意性を極力排し、単純化されたモデリングによって古典主義的な調和と空間構成を強調しています。

晩年と死

1908年にはイタリアとギリシャへの旅行で古典彫刻を研究し、さらに自身の芸術を深めていきました。晩年にはディナ・ヴィエルニーという女性をモデルに制作を続けました。1939年、第二次世界大戦の勃発を避けて故郷に戻り、制作を続けましたが、1944年、自動車事故により82歳で亡くなりました。

代表作

マイヨールの代表作には、「地中海」「とらわれのアクション」「夜」「イル・ド・フランス」「山」「河」「アルモニー」などがあります。これらの作品は、彼の彫刻家としてのキャリアと、女性像への深いこだわりを如実に示しています。

影響と評価

マイヨールは、そのシンプルながらも力強い表現力と、古典主義的な美意識を融合させた独自の彫刻様式を確立しました。彼の作品は、多くの彫刻家に影響を与え、今日でも高く評価されています。彼の生涯と作品は、芸術における探求と、一貫した主題への深い執着を示す好例となっています。彼の作品は、現代彫刻における重要な位置を占め続けており、そのシンプルな美しさは見る者を魅了し続けています。

主要参考文献

『西洋美術文庫 第16巻 マイヨール』山本豊市 アトリエ社 1939年
『マイヨール』井手則雄訳編 安土書房 1944年
『世界の美術 第30　ロダン、マイヨール』小川正隆解説　河出書房新社 1965年
その他多数

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