アルクメオーニス

アルクメオーニス

『アルクメオーニス』（古希: Ἀλκμεωνίς, Alkmeōnis）は、古代ギリシア時代に存在したとされる叙事詩の一つであり、別名として『アルクマイオーニス』（古希: Ἀλκμαιωνίς, Alkmaiōnis）とも称されます。この叙事詩は、古代の文学研究で「テーバイ圏」と呼ばれる、テーバイにまつわる物語群を扱った叙事詩サイクルの一部を構成していたと考えられていますが、残念ながら現在ではそのほぼ全てが失われており、完全な形で内容は伝わっていません。古代の文献で『アルクメオーニス』に言及しているものはごくわずかに7つしか見つかっておらず、さらに、これらの文献はすべて、この詩の作者が誰であるかを知らないと明記しています。

この失われた叙事詩の主要なテーマは、英雄アルクマイオーンが、父アムピアラーオスの死を招くことになった母エリピューレーを殺害したという出来事を描いていたと推測されています。この母殺しの物語は、テーバイ圏の他の作品、例えば『テーバイド』などでも触れられていますが、『アルクメオーニス』ではこの事件に焦点を当て、より詳細に語られていた可能性があります。

『アルクメオーニス』に関する情報は、古代の文献に残されたわずかな引用や言及を通じてのみ得られます。これらの断片からは、詩の全体像や詳細な構成を知ることは非常に困難です。

現存する断片の一つに、古代の著述家アテナイオスがその著作『食卓の賢人たち』の中で引用しているものがあります。アテナイオスは、この断片が葬儀の際の宴会を描写した部分であったために引用したと考えられています。この引用された内容は極めて短い行数に留まっており、その簡潔さはホメロスによる叙事詩『イーリアス』や『オデュッセイア』における饗宴の描写と似ています。このわずかな断片は、古代ギリシアにおける葬儀の慣習や、叙事詩が描いた日常的な光景の一端を伝える貴重な資料となっています。

また、いくつかの古代文献は、『アルクメオーニス』に含まれていたとされる具体的な内容に触れています。神話を集大成したアポロドーロスは、『アルクメオーニス』の詩人が、英雄テューデウスがなぜ故郷を追放されたのかについて、特定の理由を主張していたと伝えています。その主張によれば、カリュドーンの王オイネウスの兄弟の一人であるメラースには、ペーネウス、エウリュアロス、ヒュペルラーオス、アンティオコス、エウメーデース、ステルノプス、クサンティッポス、ステネラーオスといった息子たちがいました。これらの息子たちがオイネウス王に対して陰謀を企てたため、テューデウスが彼らを殺害したことが、テューデウスが国を追われることになった原因であると、『アルクメオーニス』は語っていたとされています。この説明は、他の神話伝承と異なる可能性もあり、この叙事詩が独自の異伝を含んでいたことを示唆しています。

さらに、地理学者ストラボンは、その著書『ギリシア・ローマ世界地誌』の中で、『アルクメオーニス』がイーカリオス王について記述していたことに触れています。ストラボンによると、『アルクメオーニス』の詩人は、イーカリオスにはアリュゼウスとレウカディオスという二人の息子がおり、彼らが父と共にアカルナーニア地方の王として統治していたと述べていたと記しています。この断片は、地理的な情報を含む数少ない例であり、叙事詩が神話だけでなく、特定の地域や王統に関する情報も扱っていた可能性を示唆しています。

このように、『アルクメオーニス』は古代の限られた文献に断片として残るのみの、失われた貴重な叙事詩です。アルクマイオーンによる母殺しという中心的なテーマに加え、当時の習俗、神話の異伝、地理的な情報なども含まれていた可能性が示唆されており、古代ギリシア文学史において重要な位置を占めていたと考えられます。しかし、全体像が不明であるため、その詳細な物語構成や芸術的評価については、現存する断片から推測するしかありません。

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