アルテメテル・ルメファントリン

アルテメテル・ルメファントリン合剤

概要

アルテメテル・ルメファントリン合剤は、アルテメテルとルメファントリンという二つの異なる作用を持つ抗マラリア薬を組み合わせた医薬品です。商品名としては、国内では「リアメット」、海外では「コ・アルテメテル（Coartem）」として広く知られています。この合剤は、主に熱帯熱マラリアの治療に用いられますが、特にクロロキンなどの従来の薬剤に対して耐性を持つマラリア原虫による感染症に有効とされています。通常、マラリアの予防薬としては使用されません。世界保健機関（WHO）が定める必須医薬品モデル・リストにも収載されており、マラリア対策において重要な薬剤の一つです。

効能・効果

本剤の主な効能・効果は、マラリアの治療です。単剤療法に比べて効果が高く、また多剤耐性マラリアが蔓延している地域においても高い治癒率を達成することが報告されています。これは、二つの有効成分が異なるメカニズムでマラリア原虫に作用し、薬剤耐性の発達リスクを低減する効果があるためと考えられます。有効性と共に、比較的忍容性も高い薬剤とされています。

使用上の注意

禁忌

以下に該当する患者さんには、本剤の投与は禁じられています。

本剤の有効成分であるアルテメテル、ルメファントリン、またはその他の製剤成分に対して、過去に過敏症（アレルギー反応）を起こしたことのある方。
妊娠初期（特に妊娠14週未満）の妊婦、または妊娠している可能性のある女性。
特定の薬剤や食品を使用中の方。これには、リファンピシン、カルバマゼピン、フェノバルビタール、フェニトイン、リファブチン、ホスフェニトインなどの酵素誘導作用を持つ薬剤や、セイヨウオトギリソウ（セント・ジョーンズ・ワート）を含む健康食品などが含まれます。これらの物質は本剤の代謝に影響を及ぼす可能性があります。

副作用

本剤の投与によって、様々な副作用が現れる可能性があります。多くの場合は軽度ですが、中には注意が必要なものもあります。

比較的頻繁に報告される副作用: 筋肉痛や関節痛、発熱、食欲不振、頭痛。
一般的な副作用（3%以上の患者に報告）: 睡眠障害、耳鳴り、体の震え（振戦）、動悸、回転性のめまい、胃腸の不調（吐き気、腹痛、下痢など）、皮膚のかゆみ、鼻や喉の炎症（鼻咽頭炎）などが報告されています。
重大な副作用: まれに、心電図上のQT間隔が延長する重篤な不整脈を引き起こす可能性や、生命に関わる重篤なアレルギー反応であるアナフィラキシーが報告されています。これらの兆候が現れた場合は、速やかに医療機関を受診する必要があります。

薬物相互作用

本剤は他の薬剤や食品と相互作用する可能性があります。特に注意が必要な点を以下に示します。

食物との関係: 本剤の有効成分であるアルテメテルとルメファントリンは、食事、特に脂肪分を含む食事と一緒に摂取することで吸収が促進されます。そのため、最大限の薬効を得るためには、可能な限り食事中または食直後に服用することが推奨されています。食事が十分に摂れない場合でも服用は可能ですが、吸収効率が低下する可能性があります。
QT間隔延長リスクのある薬剤: 心臓の電気的な活動に影響を与え、心電図上のQT間隔を延長させる可能性のある他の薬剤と併用すると、不整脈のリスクが高まることがあります。これには、特定の抗不整脈薬、精神安定薬、抗うつ薬、マクロライド系抗生物質の一部などが含まれます。これらの薬剤との併用は慎重に行う必要があります。特に、同じ抗マラリア薬であるハロファントリンとの併用は、生命を脅かす重篤なQT延長を引き起こす危険があるため、絶対的な禁忌とされています。
* 薬物代謝酵素への影響: 本剤は主に肝臓の薬物代謝酵素チトクロームP450 3A4（CYP3A4）によって代謝されます。この酵素の働きを強める「酵素誘導薬」（前述の禁忌薬剤など）や、働きを弱める「酵素阻害薬」と併用すると、本剤の血中濃度が変動し、効果が不十分になったり、副作用が強く現れたりする可能性があります。グレープフルーツジュースなど、CYP3A4に影響を与える食品も同様の相互作用を引き起こす可能性があるため、注意が必要です。

特定の患者さんにおける安全性

妊娠中の投与については、妊娠14週以降については十分な安全性データは限られていますが、多くの症例で問題なく使用されていると報告されており、リスクとベネフィットを考慮して医師の判断のもと使用されることがあります。
軽度または中等度の腎機能障害や肝機能障害を持つ患者さんにおいても、本剤の体内動態に大きな変化はないとされており、通常は用量調整の必要はないとされています。ただし、重度の機能障害がある場合は、より慎重な評価が必要です。

開発経緯

アルテメテル・ルメファントリン合剤は、1992年に医薬品として使用が開始されました。本剤を構成するアルテメテルとルメファントリンは、いずれも中国で伝統的な生薬からヒントを得て開発された化合物です。現在、本剤の有効成分を含む後発医薬品は市場に存在していません。

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