アルドリン

アルドリン：かつて広く使用された殺虫剤とその影

アルドリンは、有機塩素化合物系の殺虫剤として、1970年代まで世界中で広く使用されてきました。無色の固体で、種子や土壌への処理剤として大量に用いられ、高い殺虫効果を発揮しました。しかし、その強力な毒性と環境への残留性から、現在では多くの国で製造・使用が禁止されています。

アルドリンの製造

アルドリンは、ディールス・アルダー反応を利用して製造されます。ノルボルナジエンとヘキサクロロシクロペンタジエンを反応させることで合成され、その名前は反応の共同発明者であるドイツの化学者クルト・アルダーに由来します。アルドリンの異性体であるイソドリンも、同様の方法で合成可能です。1946年から1976年の間に、推定2億7000万kgものアルドリンと関連するシクロジエン系殺虫剤が製造されたと推定されています。

土壌や植物、昆虫の体内では、アルドリンは酸化されてディルドリンというエポキシド化合物に変化します。ディルドリンはアルドリンよりも殺虫効果が強く、環境への残留性も高いことから、より深刻な問題を引き起こす可能性があります。

環境への影響と規制

アルドリンは、他のポリ塩素系殺虫剤と同様に、非常に高い脂溶性を持ちます。そのため、水への溶解度が極めて低く（0.027 mg/L）、一度環境中に放出されると、土壌や生物に蓄積し、長期間にわたって残留します。この高い残留性と毒性から、アルドリンは残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約で禁止されています。アメリカ合衆国では1974年に、EUでも植物防護への使用が禁止されています。日本でも1970年代に、農産物からディルドリンなどの残留農薬が検出されたことが問題となり、化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律（化審法）により第一種特定化学物質に指定され、厳しく規制されています。

アルドリンの安全性

アルドリンの毒性は非常に高く、ラットの経口半数致死量は30～60 mg/kgと報告されています。しかし、魚類に対する毒性はさらに強く、マスやブルーギルに対する半数致死量は0.006～0.01 mg/kgと、哺乳類と比較してはるかに低い濃度で致死的な影響を与えます。この高い水生生物への毒性も、アルドリンの使用禁止に繋がった重要な要因です。

まとめ

アルドリンは、かつて高い殺虫効果で農業に貢献した一方、その高い毒性と残留性から、深刻な環境問題を引き起こしました。現在では世界中で使用が禁止され、その過去の使用の影響は、いまだに環境中に残存し続けています。この事例は、化学物質の使用にあたっては、その安全性と環境への影響を十分に考慮する必要があることを示しています。

もう一度検索