アルバート・コーツ

アルバート・コーツ：20世紀を彩ったロシア系イギリス人指揮者

アルバート・コーツ（1882年4月23日 - 1953年12月11日）は、20世紀を代表する指揮者であり、作曲家としても才能を発揮した、ロシア系イギリス人の音楽家です。彼は、サンクトペテルブルクでイギリス人の父とロシア人の母のもと、7人兄弟の末っ子として生まれました。ライプツィヒ音楽院でアルトゥール・ニキシュに師事し、研鑽を積んだコーツは、ドレスデンを経て、マリインスキー劇場の指揮者として活躍します。

しかし、ロシア革命の勃発により、1919年4月、フィンランド経由でイギリスへと亡命することになります。イギリスでのコーツは、1914年のコヴェント・ガーデン王立歌劇場におけるワーグナーの『トリスタンとイゾルデ』の指揮で鮮烈なデビューを飾ります。

コーツは、力強く、それでいて繊細な解釈で知られ、特にロシア音楽との相性の良さから、多くの聴衆を魅了しました。レイフ・ヴォーン・ウィリアムズやアーノルド・バックス、アレクサンドル・スクリャービンなど、現代イギリスの作曲家たちの作品を積極的に取り上げ、紹介することに貢献しました。グスターヴ・ホルストの『惑星』のロンドン初演も指揮するなど、イギリス音楽界に大きな影響を与えています。1925年には、リムスキー＝コルサコフのオペラ『見えざる街キーテジと聖女フェヴローニヤの物語』のイギリス初演、そしてロシア国外初演を実現させたことでも知られています。

1920年代から1930年代初頭にかけては、ロンドン交響楽団の首席指揮者を務め、優れたオーケストラ・ビルダーとして、楽団の演奏水準を飛躍的に向上させました。これは、彼の音楽家としての能力だけでなく、指導力やオーケストラ運営能力の高さを示すものでもあります。

コーツは指揮活動と並行して、精力的な録音活動も行いました。1920年から録音を開始し、スクリャービンの『法悦の詩』やワーグナー『ニーベルングの指環』からの抜粋、ベートーヴェンの交響曲第9番などを録音。ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番の初録音では、ウラディミール・ホロヴィッツをソリストに迎えています。これらの録音は、現在でも高い評価を得ており、当時の演奏スタイルを知る上で貴重な資料となっています。

コーツは指揮者としてだけでなく、作曲家としても活動しました。オペラ『サミュエル・ペピーズ』『ピックウィック卿』、ピアノ協奏曲、そして恩師ニキシュを偲んで作曲された交響詩『鷲』（1925年リーズ初演）などを作曲。多方面で才能を発揮した音楽家でした。

1946年には、南アフリカ連邦ケープタウン郊外のミルナートンに移住し、1953年に同地で生涯を閉じました。

アルバート・コーツは、ロシアとイギリスという二つの国を繋ぎ、20世紀の音楽史に大きな足跡を残した、重要な音楽家と言えるでしょう。彼の功績は、数々の録音や、彼が育てたオーケストラ、そして彼によって紹介された多くの作品を通して、今なお世界中で受け継がれています。彼の音楽への情熱と、時代を超えた影響力は、これからも多くの音楽愛好家たちを魅了し続けることでしょう。

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