アルファ (ゲーム)

ALPHA

1986年、当時のスクウェア（現スクウェア・エニックス）から発売されたコンピュータゲーム『ALPHA』は、『デス・トラップ』、『ウィル デス・トラップII』に続く同社アドベンチャーゲームシリーズの第三作にあたります。この時期のアドベンチャーゲームでは静止画中心のものが主流でしたが、本作はアニメーションを多用することで、視覚的な表現において他の追随を許さない独自の特色を打ち出しました。

ゲームシステム

プレイヤーはキーボードから直接行動指示を入力する、コマンド入力方式を採用しています。ゲームの進行は、プレイヤーが主人公である少女クリスに「ミル マエ」「ハナス オトコ」のように、「動詞」と「対象」を組み合わせたコマンドを与えることで進められます。動詞と対象の順序は問われず、「マエ ミル」といった入力も可能です。また、移動時には「マエ」「ヒダリ」といった方向のみの入力で操作できます。

本作は任意の場所でセーブおよびロードが可能ですが、ゲーム全体の難易度は比較的高い傾向にあります。特に、一度失ったアイテムが二度と手に入らない場合があり、その際はゲームを最初からやり直さなければならないケースが存在します。また、物語の重要な局面ではコマンド入力のミスが許されない場面もあり、キーボードの打ち間違い一つが進行不能に繋がることもあります。クリスがゲームオーバー時に死亡することはありませんが、物語がそれ以上進まなくなる、事実上のゲームオーバーとなる状況は発生します。

ゲーム画面の左右には、常に宇宙船ダイダロスの二面図が表示されており、プレイヤーの現在位置がドットで示されます。これは攻略に必須の情報というよりは、プレイヤーが宇宙船の構造を把握しやすくするための演出的な要素と言えます。

同社の前作『WILL』と同様に、全てのシーンには隠し要素として「隠れキャラクター」が存在します。例えば、倒れている人に対して特定のコマンドを入力すると意外なメッセージが表示されたり、モーターカー移動中に窓の外に意外なものが出現したりといった、ゲーム進行には全く関わらないお遊び要素です。これらを発見したか否かで、ストーリーや結末が変化することはありません。

物語

物語は21世紀末、地球環境の悪化により人類が太陽系外惑星エリダヌス座イプシロン系アルファへの移住を決意したことから始まります。目的地まで10.7光年という途方もない距離に加え、人工冬眠技術が未確立であったため、人類は巨大な恒星間宇宙船「ダイダロス」を建造しました。これは数万人が居住可能な自給自足型宇宙船であり、何世代にもわたり航海を続けることで目的地に到達する壮大な計画でした。

西暦2101年、人類の希望を乗せたダイダロスは地球を旅立ちます。数百年の時が流れ、船内では地球を知る者は一人もいなくなっていました。宇宙と船内しか知らない世代は、かつての夢や希望を失い、ただ怠惰な日々を送るようになっていました。

そんな中、記憶を失った少女クリスが船内の丘で目覚めます。その直後、彼女の目の前の居住区で革命が勃発し、爆発が発生。爆発現場へ向かったクリスは、破壊されたスタジアムで混乱を目の当たりにします。近くのショッピングセンターで酸素マスクを盗んだところを中央管理局のロボットに捕らえられ、ポリスセンターへ連行されます。クリスは住民リストに登録がなかったため処分対象とはならず、一時的に拘束された後、釈放されます。

スタジアムに戻ったクリスは、革命派の男たちに連れられアジトへ向かい、サブリーダーのアーノルドと出会います。機械に支配された現状に不満を持つアーノルドは、記憶喪失のクリスに協力を求めます。しかし、再び中央管理局のロボットがアジトを襲撃し、クリスはまたもポリスセンターへ。前回同様に釈放されますが、アジトは壊滅していました。瀕死の革命派関係者から、ポリスに捕らえられたリーダー・キースの救出を託されます。

クリスは意図的にロボットに捕まり、釈放時にロボットからレーザーガンを奪い、キースの救出に向かいます。牢獄でキースを見つけますが、追ってきたロボットとの交戦中、キースはレーザーガンを受けて倒れます。その時、キースの正体が革命のために作られたアンドロイドであることが判明。キースはクリスに、自分もまたアルファへ人類を導くために作られたアンドロイドであることを告げ、「住民を救えるのは君しかいない、メイン・コンピュータを破壊して人々をアルファに導け」と鍵を託し、機能を停止します。悲しみに暮れるクリスは再び捕らえられますが、キースから託された鍵を隠し持ち、彼の遺志を継ぐことを決意します。

その後、クリスは革命派アジト跡やショッピングセンターで装備を整え、ステーションガルダにあるメイン・コンピュータをダイナマイトで破壊します。メイン・コンピュータは住民管理を徹底するあまり、アルファ到着後も着陸を妨げていたのです。

続いて宇宙船のレーダー室に侵入したクリスは、レーダーがダイダロスが既に一年以上前にアルファの軌道に到達していることを示しているのを発見します。着陸しない理由を訝しむクリスは、レーダー画面の隅に「イカロス」の文字を見つけ、それをコントロールブリッジへのパスワードとして入力し突入。そこで再生された連邦政府最高責任者ジェームズの録音テープを聞き、地球が核戦争で滅亡したこと、そしてクリス自身がアルファへの着陸を果たすために作られたアンドロイドであることを知ります。ジェームズはテープの中で、最後の希望であるダイダロスの人々をアルファへ導く使命をクリスに改めて託します。

クリスはパネルの着陸スイッチを押し、ダイダロスのアルファへの着陸システムが作動します。エンディングでは、笑顔のクリスと、アルファの大地に降り立つダイダロスの人々の姿が描かれます。

登場人物

CHRIS（クリス）: 本作の主人公。物語開始時は記憶を失っていますが、その正体はダイダロスの人々をアルファへ導く目的で作られたアンドロイドです。特徴的な衣装を身につけており、ゲーム中にはロボットに拘束される場面も描かれます。

KEITH（キース）: ダイダロス船内で革命を起こした革命派のリーダー。彼の過去には謎が多く、正体は住民を目覚めさせるために作られたアンドロイドでした。ポリスに捕らえられますが、クリスに真実と使命、そして鍵を託し力尽きます。

ARNOLD（アーノルド）: 革命派のサブリーダー。厳つい外見ですが情に厚く、根は優しい人物です。青いサングラスが特徴で、外すと意外な素顔を見せます。コンピューターやロボットによる支配に疑問を持ち、革命を主導しました。

用語解説

DAEDALOS（ダイダロス）: 人類が地球を脱出し、アルファを目指すために建造された巨大な恒星間航行用宇宙船。全長23,000m、直径4,500mにも及ぶ規模で、船内には居住区が設けられ、そこで数世代にわたる人々が生活しています。

メイン・コンピューター: ダイダロス船内のロボットを統制し、住民を管理している中枢システム。何百年もの長距離航海において住民を安全に生存させるため、徹底した管理体制を維持するようプログラミングされています。しかし、それが過剰な管理となり、住民から目的意識を奪い、アルファ到着後も着陸を妨げる存在となっていました。

ロボット: メイン・コンピューターの指令に基づき、ダイダロス船内の治安維持を担う存在。レーザーガンを装備しており、犯罪行為を行ったクリスなどを拘束します。一部のロボットはアイテムを所持していたり、特定の条件を満たさないと倒せない場合もあります。

モーターカー: ダイダロス船内の広大な居住区域を移動するための交通手段。複数のステーション間を走行し、プレイヤーの移動に利用されます。

ステーション: モーターカーの停車駅。カゼム、サロウ、アレス、ユライ、ガルダなどがあり、物語の舞台となります。

* エレベーター: ダイダロスの異なる階層間を移動するための設備。利用にはレッドカードやシルバーカードが必要な場所があります。ただし、多くのエレベーターはロボットが待ち伏せているダミーであり、正解を見つける必要があります。また、一方通行のエレベーターも存在します。

開発スタッフ

本作の楽曲は、後に数々の名作RPGの音楽を手掛ける植松伸夫氏が担当しています。パッケージには、ゲーム内BGMのアレンジバージョンや主人公クリスのイメージ曲を収録したソノシートが同梱されていました。パッケージデザインおよび広告イラストは、いのまたむつみ氏が手掛けていますが、ゲーム中のキャラクターデザインは別の担当者によるものです。

様々なプラットフォームでリリースされており、PC-8801版、PC-9801版、FM-7版、X1版などが存在します。PC-8801版は、純正FM音源ボードを追加することで全てのシリーズでFM音源のサウンドを楽しむことができました。

『ALPHA』はその独創的なアニメーション表現とコマンド入力式システム、そして高難易度ながらも深遠なSFストーリーで、当時のプレイヤーに強い印象を残した作品と言えるでしょう。

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