アル=ハラム・モスク占拠事件

1979年メッカ・アル=ハラム・モスク占拠事件:聖地を揺るがした過激派の蜂起



1979年サウジアラビアの聖地メッカにおいて、アル=ハラム・モスク占拠という未曾有の事件が発生しました。この事件は、イラン革命後の世界情勢やサウジアラビア国内の政治状況を反映した、複雑な背景を持つ出来事でした。

事件の背景:イラン革命とサウジアラビア

1979年初頭のイラン革命は、サウジアラビアを含む周辺諸国に大きな衝撃を与えました。革命は、サウジアラビア国内のシーア派住民の反乱や、イスラム過激派の台頭を招く可能性を孕んでいたからです。イラン革命指導者ルーホッラー・ホメイニーの反サウード家言動は、サウジアラビアの王室支配を揺るがす脅威となりました。

事件の首謀者ジュハイマーン・アル=ウタイビーは、かつての反政府組織「アル・イフワーン」の指導者の孫であり、サウード王室への復讐を企てていました。彼は、イラン革命の成功に影響を受け、過激なイスラム主義思想を掲げていました。

モスク占拠:巧妙な計画と人質劇

11月20日、アル=ハラム・モスクに武装集団が潜入しました。彼らは巡礼者に紛れて武器を運び込み、モスク内部で武装蜂起。モスクの警備体制を掌握すると、多数の巡礼者を人質に取ります。この行動は、綿密な計画に基づいて実行されました。

占拠者は「アッラーフ・アクバル(アッラーは最も偉大なり)」と叫びながらモスク内を制圧。モスク関係者を拘束する際に発砲事件も発生し、多くの巡礼者が逃亡を試みました。しかし、およそ1000人の巡礼者が人質となりました。

鎮圧作戦:国際協力と困難な制圧

サウジアラビア政府は、国王ハーリド・ビン・アブドゥルアズィーズの決断の下、鎮圧作戦を開始しました。しかし、聖地での武力行使は慎重な対応を要しました。イスラーム法学者たちの許可を得てから、5万人の治安部隊を動員。装甲車、ヘリコプター、戦車など、大規模な戦力が投入されました。

作戦は難航しました。武装集団はモスクの地下構造に立てこもり、激しい抵抗を続けます。サウジアラビア軍に加え、パキスタン陸軍特殊部隊フランス国家憲兵隊治安介入部隊も支援に当たりました。フランス部隊員は、作戦の秘匿性を保つため、一時的にイスラム教に改宗したとされています。

放水や催涙ガスによる制圧作戦の後、特殊部隊による突入が行われ、12月4日にようやく完全制圧が達成されました。鎮圧作戦では、サウジアラビア側にも多大な犠牲が出ました。

事件の後遺症とサウジアラビアへの影響

事件後、公式発表では武装集団の死者は75人、拘束者は170人、サウジアラビア側の死者は60人、負傷者は約200人とされました。アル=ウタイビーら主要メンバーは公開処刑されました。

この事件は、サウジアラビアの国家安全保障政策に大きな影響を与えました。政府は、特殊部隊の育成や国家安全保障体制の強化に力を入れました。同時に、過激派への配慮、西欧化への抑制、外国文化の流入制限などが行われました。

また、この事件を契機にシーア派住民との関係悪化も深刻化し、サウジアラビア政府はシーア派地域への政策変更を迫られることとなりました。

アル=ハラム・モスク占拠事件は、サウジアラビアの歴史に大きな影を落とす出来事でした。この事件は、イラン革命後のイスラム世界における政治的、宗教的対立、そしてサウジアラビアの国家体制の脆弱性を浮き彫りにしました。この事件の教訓は、現在でもサウジアラビアの政治、社会に影響を与え続けていると言えるでしょう。

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