アレクサンドル・メーンシコフ

アレクサンドル・ダニーロヴィチ・メーンシコフ：栄光と転落の生涯

アレクサンドル・ダニーロヴィチ・メーンシコフ（1673年-1729年）は、18世紀ロシア帝国を代表する軍人、政治家です。貧しい出自ながら、ピョートル大帝の寵臣として莫大な権力を掌握し、エカチェリーナ1世の治世においてもその影響力を維持しましたが、晩年には失脚し、悲劇的な最期を遂げました。彼の生涯は、上昇と転落、栄光と挫折が織りなすドラマと言えるでしょう。

草の根からの出発とピョートル大帝との出会い

メーンシコフは、モスクワ近郊で貧しい馬丁の家に生まれました。若い頃は饅頭売りをしていたとも伝えられています。しかし、運命の出会いが彼の生涯を劇的に変えました。それは、まだ若き日のピョートル1世との出会いでした。首都近郊の外国人居留地で頻繁に出入りしていたピョートル1世は、軍事教練に熱心に取り組んでおり、メーンシコフはその一兵士として参加したことで寵臣の道を歩み始めることとなります。

大北方戦争での活躍と野望

1697年から1698年にかけて、ピョートル1世の西欧使節団に同行したメーンシコフは、1700年から勃発した大北方戦争においても重要な役割を果たします。ボリス・シェレメーテフと共にバルト海沿岸地域の占領を任され、1702年にはスウェーデン領ノーテボリ（のちのシュリッセリブルク）を陥落させました。この戦いはロシア軍に大きな犠牲をもたらしましたが、ピョートル1世はノーテボリを「イングリアへの鍵」と見なして、この地の戦略的価値を高く評価しました。

また、メーンシコフは、シェレメーテフの召使いであったリヴォニア出身の女性マルタを召使いとして引き取りました。マルタは後にピョートル1世の寵愛を受け、エカチェリーナ・アレクセーエヴナと改名して皇后となりました。メーンシコフはマルタとの繋がりを通して、後の権力闘争において大きな恩恵を受けることになります。

1706年にはポーランド王アウグスト2世救援のため出陣しましたが、アウグスト2世がスウェーデン王カール12世と講和したため失敗に終わりました。しかし、1708年にはピョートル1世の命を受け、ウクライナ・コサックのヘーチマン、イヴァン・マゼーパの反乱鎮圧に貢献。バトゥールィンを包囲、陥落させました。このバトゥールィン攻略においては、住民への残虐な行為が行われたとされ、「バトゥールィン悲劇」として歴史に刻まれています。

1709年のポルタヴァの戦いでは、ピョートル1世と共にスウェーデン軍を撃破、勝利に貢献しました。その後も、デンマーク＝ノルウェー、ザクセンと同盟してスウェーデン領ポメラニアを攻撃し、シュテッティン、シュトラールズントを攻略するなど、大北方戦争におけるロシアの勝利に大きく貢献しました。

権力掌握と失脚

大北方戦争での活躍と、エカチェリーナとの繋がりは、メーンシコフの権勢をますます強めました。しかし、公金横領などの汚職の噂も絶えませんでした。1724年には逃亡農民を所領に匿ったことが発覚し、一時謹慎処分を受けましたが、エカチェリーナの庇護によって処罰は免れました。

1725年、ピョートル1世の死が迫ると、メーンシコフは新興貴族勢力と結託し、エカチェリーナを擁立してクーデターを起こします。エカチェリーナ1世の即位後、メーンシコフは最高枢密院を掌握し、実権を握りました。政敵の排除を進め、次期政権にも残留しようと画策しましたが、1727年にエカチェリーナ1世が死去すると、12歳のピョートル2世を皇帝に擁立し、自身の娘を彼と婚約させようとするも、保守派貴族による反撃を受けました。

最終的に、メーンシコフは失脚し、莫大な財産を没収されて家族と共に僻地に追放されました。追放先の地で病死したメーンシコフの生涯は、彼の驚異的な上昇と、その後の悲惨な転落を物語るものです。彼の波乱に満ちた人生は、18世紀ロシアの歴史を理解する上で重要な一端を担っています。

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