アレクサンドル・ヴェルジビロヴィチ

アレクサンドル・ヴァレリアノヴィチ・ヴェルジビロヴィチ

アレクサンドル・ヴァレリアノヴィチ・ヴェルジビロヴィチ（ロシア語: Александр Валерианович Вержбилович、ラテン文字表記例: Aleksandr Valerianovich Verzhbilovich、1850年1月8日 - 1911年3月15日）は、帝政ロシア時代に活躍したポーランド系のチェリスト、作曲家、そして影響力のある音楽教師です。特にサンクトペテルブルク音楽院で教授を務め、ロシアのチェロ教育と演奏の発展に大きく貢献しました。

生涯と教育

1850年、帝政ロシアの首都サンクトペテルブルクに生まれたヴェルジビロヴィチは、幼い頃から音楽の才能を示しました。彼はサンクトペテルブルク音楽院に進学し、当時のロシアで最も優れたチェリストの一人であったカルル・ダヴィドフのもとでチェロ演奏の技術を磨きました。ダヴィドフはヴェルジビロヴィチにとって師であると同時に、後のキャリアにおいても重要な影響を与えた人物です。ヴェルジビロヴィチは1871年に音楽院を卒業しました。

演奏家としての活動

卒業後、ヴェルジビロヴィチはプロのチェリストとして精力的に活動を開始します。

オーケストラ首席奏者: 1877年から1882年にかけて、サンクトペテルブルクのイタリア・オペラ団管弦楽団で首席チェロ奏者を務めました。その後、1882年から1885年までは、ロシアを代表する劇場であるマリインスキー劇場の管弦楽団で首席チェロ奏者を務めるなど、主要なオーケストラで重要なポジションを歴任しました。
ソリスト・室内楽奏者: オーケストラでの活動に加え、ヴェルジビロヴィチはソリストや室内楽奏者としても国内外で高い評価を得ました。彼は当時の著名なピアニストたちと数多く共演しており、アントン・ルビンシテイン、ワシーリー・サフォーノフ、アレクサンドル・ジロティ、アンナ・エシポワ、フェリックス・ブルーメンフェルト、セルゲイ・ラフマニノフなど、錚々たる顔ぶれが彼の共演者リストに名を連ねています。特にピアニストのアンナ・エシポワとは、ヴァイオリンのレオポルト・アウアーと共にピアノ三重奏を組み、その演奏は大きな注目を集めました。
ポーランドでの活動: ポーランド系ロシア人であるヴェルジビロヴィチは、頻繁にポーランドへ演奏旅行に出かけました。その際、彼は決まってポーランドを代表する音楽家たち、すなわちピアニストのアレクサンドル・ミハウォフスキとヴァイオリニストのスタニスラフ・バルツェヴィツと共にトリオを組み、祖国ポーランドの聴衆にもその妙技を披露しました。
弦楽四重奏: 1880年からは、かつて師ダヴィドフがメンバーであったサンクトペテルブルク・ロシア音楽協会弦楽四重奏団に、ダヴィドフの後任として参加しました。

重要な初演への参加

ヴェルジビロヴィチは、いくつかの歴史的に重要な作品の初演にも立ち会っています。

ピョートル・イリイチ・チャイコフスキーの傑作、弦楽六重奏曲「フィレンツェの思い出」の初演には特筆すべき貢献をしました。彼は、1890年9月に作曲者のごく少数の友人を招いて行われた非公式な第1稿の初演と、その改訂を経て1892年に行われた正式な第2稿による初演の両方に参加しています。
師カルル・ダヴィドフの追悼のためにアントン・アレンスキーが作曲したピアノ三重奏曲第1番ニ短調 作品35の初演（1895年）にも、主要な演奏者として参加しました。

教育活動

1882年より、ヴェルジビロヴィチは母校であるサンクトペテルブルク音楽院でチェロの指導を開始しました。彼は教育者としての才能も持ち合わせており、短い中断期間を挟みながらも、亡くなる1911年まで約30年間にわたり教壇に立ち続けました。1890年には教授に昇進し、熱心な指導を通じて数多くの優れたチェリストたちを育て上げました。彼の門下からは、後に高名な音楽家となるセミョーン・コゾルポフ、レオポリド・ロストロポーヴィチ（世界的なチェリスト、ムスティスラフ・ロストロポーヴィチの父）、エフゲニー・ヴォリフ＝イズラエリ、ドミトリー・ブズリ、ステファン・ヴィリコンスキーなどが輩出されています。

作曲と編曲

ヴェルジビロヴィチは主に演奏家や教育者として知られていますが、作曲活動も行っていました。彼はチェロのための小品、例えばワルツや練習曲などを残しています。また、ピョートル・イリイチ・チャイコフスキーの作品などをチェロのために編曲するなど、編曲家としても活動しました。

献呈された作品

ヴェルジビロヴィチの卓越した演奏技量と名声は、同時代の著名な作曲家たちからも高く評価されていました。アレクサンドル・グラズノフは彼の芸術を讃え、「2つの小品 作品20」や「吟遊詩人の歌 作品70」をヴェルジビロヴィチに献呈しています。また、ダーヴィト・ポッパーは自身の「スペイン舞曲集 作品54」を、エドゥアルド・ナープラヴニークも彼の作品をヴェルジビロヴィチに捧げています。これらの献呈は、彼が当時の音楽界において中心的な存在であり、その演奏が広く尊敬されていた何よりの証と言えるでしょう。

アレクサンドル・ヴァレリアノヴィチ・ヴェルジビロヴィチは、演奏、教育、そして作曲・編曲といった多岐にわたる活動を通じて、帝政ロシアにおけるチェロ芸術の発展に indelible な足跡を残した偉大な音楽家です。

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