アレクシイ2世

アレクシイ2世：激動の時代を導いたロシア正教会の総主教

アレクシイ2世（1929年2月23日 - 2008年12月5日）は、第15代モスクワ及び全ロシアの総主教であり、ロシア正教会の首座主教を務めた人物です。俗名はアレクセイ・ミハイロヴィッチ・リディゲル。バルト・ドイツ系の出自を持ちます。

ポスト・ソ連期という激動の時代に総主教を務め、ソビエト連邦崩壊後の宗教復興を主導しました。かつてはKGBの手先や国家保守主義の支持者であったとも言われていますが、その治世下において、ロシア正教会はソ連当局からの厳しい迫害と統制から解放され、国のエリート政治家からも好意的に受け入れられる存在へと変貌を遂げました。

名前について

俗人としてはアレクセイ（Алексей）、聖職者としてはアレクシイ（Алексий）という名前が用いられました。ラテン文字表記では、Alexius, Aleksij, Aleksi, Alexiy, Alexis, Alexei, Alexey, Alexyなど、様々なバリエーションが存在します。修道士となっても名前は変わりませんでしたが、守護聖人はローマの聖アレクシウスから、モスクワ神現大聖堂に眠るモスクワ府主教アレクシイへと変更されました。

生涯

出自

アレクセイ・ミハイロヴィチ・リディゲルは、エストニアのタリンで生まれました。父ミハイル・フォン・リディゲルは、サンクトペテルブルク生まれのバルト・ドイツ人貴族の末裔であり、その祖先は17世紀にスウェーデン王カール11世によってナイト爵に叙せられた人物です。

18世紀初頭の大北方戦争の結果、エストニアとリヴォニアがロシア帝国に帰属した後、アレクシイ2世の祖先であるフリードリヒ・ヴィルヘルム・フォン・リュディガーは、エカチェリーナ2世の治世に正教会に改宗しました。

1917年のロシア革命後、父ミハイルは国外へ逃れ、一家はエストニアに移住しました。その後、ミハイルはタリンに移り住み、アレクシイ2世の母エレーナ・ヨシフォヴナ・ピサレヴァと出会い、結婚しました。父ミハイルは、後に司祭となり、タリンの教会で教区司祭を務めました。

経歴

幼少期から、代父である長司祭イオアン・ボゴヤヴレンスキーの指導のもと、正教会に奉仕しました。タリンのロシア中等学校に通いながら、教会の奉仕活動に励みました。

レニングラード神学校、レニングラード神学アカデミーで学び、1950年に輔祭、同月には司祭に叙聖されました。その後、タリン主教区で教区司祭として活動しました。

1957年には、タリンの生神女就寝大聖堂の教区司祭兼タルトゥ地方のDeanに任命され、1958年に長司祭に昇叙されました。1961年には修道士となり、タリンおよびエストニアの主教に選出されました。1964年に大主教、1968年に府主教へと昇叙し、1986年から総主教に選ばれるまで、ノヴゴロド・レニングラード府主教を務めました。

1990年、先代のピーメン1世の逝去後、ロシア正教会の新しい総主教に選出されました。運営経験が豊富で、知的、精力的、勤勉であること、計画性と洞察力があることなどが評価されました。

総主教就任後は、教会の権利擁護に尽力し、ソビエト政府に公立学校での宗教教育の承認と「信教の自由」を法的に認めるよう求めました。1991年の8月クーデターでは、ゴルバチョフ大統領が軟禁されたことを非難し、クーデターの首謀者たちを破門しました。

1992年、共産主義時代に弾圧された多くの聖人を列聖しました。2007年、ロシア正教会と在外ロシア正教会との和解を実現しました。

2008年12月5日、モスクワ郊外の自宅で心不全により永眠しました。

私生活

1950年にヴェーラ・アレクセーエヴァと結婚しましたが、1年後に離婚しました。離婚の理由は公表されていません。

モスクワ西郊外に自宅を構え、そこには教会や博物館、3階建ての家屋がありました。また、モスクワ中央部にも執務用の住居を持っていました。

論争

ドイツへの謝罪

1995年、ドイツを公式訪問した際、「ソビエト連邦によりドイツに押しつけられていた共産主義の圧政」について公式に謝罪しました。この発言は、ロシア国内で批判を呼びました。

教会内の批判

他の教派代表たちとの対話活動や、反ユダヤ主義を公式に非難したことなどに対し、ロシア正教会の一部から反対がありました。

KGBへの協力疑惑

KGBの工作員であったという疑惑が指摘されていますが、モスクワ総主教庁はこれを否定しています。ただし、ソビエト時代には、聖職者の任命に際し、共産党やKGBの承認が必要であったことは事実です。

同性愛への反対

同性愛者の公的活動に断固として反対の立場をとり、国内外の同性愛関係者から批判を受けました。

アレクシイ2世は、激動の時代にロシア正教会の舵を取り、教会の復興と社会における地位向上に大きく貢献した人物として記憶されています。

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