アレッポ城

アレッポ城塞：悠久の歴史と内戦の傷跡

シリア北部のアレッポ旧市街の中心にそびえ立つアレッポ城塞は、世界最古にして最大級の城塞の一つとされています。その歴史は紀元前3千年紀中頃まで遡り、数々の文明が栄枯盛衰を繰り返す中で、幾度となく改修・増築を繰り返しながら、今日にその姿を留めています。しかし、近年勃発したシリア内戦によって、この貴重な歴史遺産は深刻な被害を受けてしまいました。本稿では、アレッポ城塞の歴史、構造、そして内戦による損害について詳細に解説します。

悠久の歴史：古代から近代へ

アレッポ城塞の丘は、少なくとも紀元前3千年紀中頃から利用されてきました。発掘調査によって、嵐の神ハダドを祀る古代神殿の存在が確認されており、楔形文字文書にもその記述が残されています。紀元前2千年紀前半にはヤムハド王国の首都となり、「ハダドの都」として栄えました。その後、アッ[[シリア]]、新バビロニア、ペルシア帝国など、多くの勢力に支配された後、アレクサンドロス大王の遠征によって征服され、セレウコス朝時代に再建されます。

ローマ帝国、東ローマ帝国の支配下でも宗教的な重要性を保ち続け、城塞はゼウスを祀る場所として機能しました。7世紀にはサーサーン朝との戦争で市民の避難場所となり、イスラム勢力の征服後も、ウマイヤ朝、アッバース朝などの支配を受けながら、辺境都市としての役割を果たしていました。

11世紀末以降、十字軍との激しい争奪戦の舞台となり、ザンギー朝、アイユーブ朝と、イスラム諸王朝が城塞を強化し、十字軍の攻撃を幾度となく退けました。アイユーブ朝時代のサラディンの子、アル＝ザーヒル・アル＝ガーズィーの治世(1193-1215年)には、城塞の大規模な改修・増築が行われ、現在の城塞の主要な構造物が完成しました。この時代には、宮殿、モスク、浴場、兵器庫、貯水槽など、城塞都市としての機能が充実しました。

その後、モンゴルの侵攻によって損傷を受けたものの、マムルーク朝時代に修復され、オスマン帝国時代には軍事拠点としての役割は減退しましたが、兵舎として利用され続けました。19世紀には地震で大きな被害を受けましたが、修復され、フランス委任統治時代には考古学的調査と修復事業が進められました。

城塞の構造：防衛と生活の融合

アレッポ城塞は、周囲2.5キロメートル、高さ約50メートルの丘の上に築かれています。城壁は複雑な構造をしており、複数の門、防衛塔、堀などが巧みに配置されています。城塞の入口は、連続した5つの曲がり角と3つの門を通り抜ける複雑な構造となっており、侵入者を遅らせるための工夫が施されています。城内には、アイユーブ朝時代の宮殿跡、モスク、浴場、貯水槽などの遺構が残されており、当時の生活の様子を垣間見ることができます。

特に、アイユーブ朝時代に建設された城門は、壮大な橋とアーチ状の通路からなる見事な構造です。門の入口は、敵の侵入を阻むために複雑な曲がり角が設けられています。城門の上部には、マムルーク朝時代に増築された謁見の間があり、かつてはマムルーク朝の君主が謁見や儀式を行っていたと考えられています。

シリア内戦と未来：損傷と修復への課題

2012年以降のシリア内戦において、アレッポ城塞は激しい戦闘の舞台となりました。政府軍と反政府勢力の激しい攻防により、城壁や建物は砲撃や爆撃を受け、深刻な損傷を被っています。城塞は、政府軍による軍事拠点としても利用され、古代の狭間が狙撃に使用されるなど、歴史的建造物が現代の紛争に巻き込まれるという悲しい現実を突きつけられました。

内戦終結後、アレッポ城塞の修復は、シリアの未来にとって重要な課題となっています。この貴重な歴史遺産を保護し、後世に残すためには、国際社会の協力と、長期的な視点に立った修復計画が不可欠です。アレッポ城塞の復元は、シリアの平和と復興の象徴となるでしょう。

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