アンジェイ・パヌフニク

サー・アンジェイ・パヌフニク

サー・アンジェイ・パヌフニク（Sir Andrzej Panufnik, 1914年9月24日 - 1991年10月27日）は、20世紀ポーランドを代表する作曲家、そして優れたピアニストおよび指揮者でもありました。その娘であるロクサンナ・パヌフニクもまた、作曲家として活躍しています。

生涯

1914年、ワルシャワに生まれたパヌフニクは、若い頃から音楽の才能を発揮しました。1932年から1936年にかけて、ワルシャワ、パリ、ウィーンの音楽院で学び、作曲や指揮の技術を磨きました。特にウィーンでの学生時代には、日本の音楽家である尾高尚忠との交流があったことが知られています。

第二次世界大戦が勃発し、ワルシャワが占領下に置かれると、パヌフニクは抵抗の精神を示す仲間たちと共に、自宅などで秘密裏にコンサートを開催しました。また、カフェでは友人のヴィトルト・ルトスワフスキとピアノ連弾を行い、ルトスワフスキの有名な『パガニーニの主題による変奏曲』も彼らの手によって初演されました。しかし、1944年のワルシャワ蜂起の最中、パヌフニクはこれまでに作曲した多くの楽譜を失うという悲劇に見舞われます。戦後、彼は失われた作品の一部を自身の記憶を頼りに懸命に復元しました。

戦後、ポーランド人民共和国が成立すると、パヌフニクはワルシャワやクラクフの主要なオーケストラで指揮者として活躍する一方、国外でも精力的に活動を行いました。しかし、ポーランド政府が1954年に彼の作品の出版や演奏を禁止するという厳しい措置を取ったことから（この禁止令は1977年まで続きました）、パヌフニクは故国を離れることを決意し、イギリスへ移住しました。これは、芸術家が政治的圧力によって表現の自由を奪われるという、当時の東欧にしばしば見られた悲劇的な状況の一例と言えるでしょう。

イギリス移住後、パヌフニクは作曲活動を続けながら、1957年から1959年にかけてバーミンガム市交響楽団の音楽監督を務めました。彼の音楽は次第に国際的な評価を高めていきました。晩年にはその功績が認められ、1991年にナイトの称号を授与されました。同年、彼はロンドン近郊のトゥイッケナムでその生涯を閉じました。

作品

パヌフニクの創作活動の中心には、数多くの交響曲があります。彼は生涯で10曲の交響曲を完成させましたが、これに加えてワルシャワ蜂起で焼失した2曲が存在します。交響曲の他にも、3曲の弦楽四重奏曲やヴァイオリン、ピアノなどのための協奏曲といった室内楽や協奏曲も重要な位置を占めています。

特に有名な作品の一つに、弦楽オーケストラのための「カティンの森の墓碑銘」（カティンの犠牲者のために）があります。この作品は、第二次世界大戦中にポーランド人将校らが大量に殺害されたカティンの森事件に捧げられました。作曲当時、この事件はナチス・ドイツによる単独犯行と広く認識されており、パヌフニクもファシズムに対する警鐘としてこの曲を書いたと言われています。しかし、その後の研究により、事件が実際にはヨシフ・スターリンの命令によるソビエト連邦の内務人民委員部（NKVD）の仕業であったことが明らかになりました。パヌフニクがこの事実を知る前に亡くなったことは、歴史の皮肉と言えるでしょう。

パヌフニクの主な管弦楽曲には以下のようなものがあります。

悲劇的序曲 (1942)
素朴な交響曲（交響曲第1番）(1948/1955)
古いポーランドの組曲 (1950/1955)
悲歌的交響曲（交響曲第2番）(1957/1966)
神聖な交響曲（交響曲第3番）(1963)
カティンの森の墓碑銘 (1967)
天上の交響曲（交響曲第5番）(1974-75)
交響曲第8番（シンフォニア・ヴォティヴァ「平和の交響曲」または「祈りの交響曲」）(1980-81) - ボストン交響楽団創設100周年記念の委嘱作品で、小澤征爾の指揮によって初演されました。
希望の交響曲（交響曲第9番）(1986)
交響曲第10番（1988/1990）

没後

パヌフニクの死後、彼の功績を記念し、若手作曲家の育成を目的とした「国際アンジェイパヌフニク作曲コンクール」が計4回にわたり開催されました。このコンクールからは、アガタ・ズベル、キー・ヨン・チョン、ドミニック・カルスキ、ガブリエル・パレヨン、アタナシア・ツァノウ、ジャクブ・サルウァスなど、国際的に活躍する個性的な作曲家たちが輩出されています。

アンジェイ・パヌフニクは、ポーランドの音楽遺産を受け継ぎつつ、時代の困難と向き合い、独自の音楽語法を確立した作曲家として、今なお世界中で高く評価されています。

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