尾高尚忠

尾高尚忠の生涯

尾高尚忠（おたか ひさただ）は、1911年9月26日に東京府で生まれ、1951年2月16日に39歳という若さで亡くなった作曲家、指揮者です。幼少の頃から音楽に親しみ、東京府立第五中学校を経て旧制成城高等学校を中退後、1931年にウィーンへ留学しました。

ウィーンでは、ピアノをベルタ・ヤンベールに、音楽理論をリヒャルト・シュテールに師事しました。一時帰国後、武蔵野音楽学校で教鞭をとりながら、作曲をクラウス・プリングスハイム、ピアノをレオ・シロタに学びました。1934年に再びウィーンへ渡り、作曲をヨーゼフ・マルクス、指揮をフェリックス・ワインガルトナーに師事し、個人的にフランツ・モーザーからも作曲、管弦楽法、指揮の指導を受けました。

1938年からは、ウィーン交響楽団やベルリン・フィルハーモニー管弦楽団を指揮するなど、指揮者としてヨーロッパで活躍しました。また、自作の楽曲も披露し、ヴァイオリニストのヴォルフガング・シュナイダーハンと親交を深めました。

1940年に帰国し、1941年1月に新交響楽団（現在のNHK交響楽団）を指揮して日本デビューを飾りました。新交響楽団が日本交響楽団に改組される直前には、山田和男とともに専任指揮者となり、ジョセフ・ローゼンストックを支え、定期演奏会で指揮を執りました。戦後も引き続き日響で活躍しましたが、戦中から戦後にかけての過労が原因で体調を崩し、1951年1月12日の名古屋での公演を最後に病に倒れ、39歳でこの世を去りました。死因は出血性上部灰白質脳炎でした。同年3月5日には山田和男の指揮による追悼演奏会が開催されました。

尾高は亡くなる直前、日響機関誌に当時の多忙な状況を「強行軍的演奏旅行」と表現し、燕尾服の上からヒロポンを注射して指揮台に立っていたというエピソードが残されています。また、音楽評論家の野村光一は、尾高の死はNHKの責任であると指摘し、その結果、日響は尾高の死後約半年後にNHKの全面支援を受け、NHK交響楽団に改称されました。さらに、NHK交響楽団は、日本の優れた管弦楽曲に贈られる賞として「尾高賞」を創設しました。

尾高の残した映像や録音資料は非常に少なく、東京交響楽団を指揮し、安川加壽子と共演したサン＝サーンスのピアノ協奏曲第5番「エジプト風」のスタジオ録音と、自作の交響曲第1番の断片的なライブ録音の2点、そして、1948年の放送芸能祭でベートーヴェンのオペラ「フィデリオ」第2幕を指揮した映像が残されているのみです。

逸話

学生時代、尾高が便所でベートーヴェンの交響曲第9番を口笛で吹いていたところ、兄に「ベートーヴェンを便所の中で口笛で吹くとは何事だ」と叱責されたという逸話があります。しかし、音楽家になってからは、演奏会で指揮するベートーヴェンの交響曲を便所で勉強していたそうです。

また、映画「アメリカ交響楽」を鑑賞した際、「自分もガーシュインと同じく39歳で死ぬだろう」と妻に漏らしたというエピソードも残っています。これは、2人が下顎が出ていることや誕生日が同じ9月26日であることが理由とされていますが、結果としてその言葉は現実となりました。ちなみに、尾高とガーシュインの死因はいずれも脳の病気でした。

家族・親族

尾高の父方の祖父は実業家の尾高惇忠、父は漢学者・銀行家の尾高次郎、母は渋沢栄一の三女ふみです。兄には郷土教育家の尾高豊作、法哲学者の尾高朝雄、社会学者の尾高邦雄らがいます。また、作曲家の諸井三郎・誠親子も輩出した実業家一族の諸井家とも、渋沢家を通して縁戚関係にあります。妻の尾高節子はピアニストであり、長男は作曲家の尾高惇忠（祖父と同名）、次男は指揮者の尾高忠明です。妻の姉には女優・演出家の長岡輝子がおり、姪にはチェリストの倉田澄子がいます。

弟子

林光は、父親が尾高と親しかった関係で、幼少時から尾高に作曲を師事しました。尾高が急逝した際、フルート協奏曲のオーケストレーションを補筆完成させたのは、当時まだ10代だった林光です。

作品

尾高尚忠は、数多くの管弦楽曲、室内楽曲、ピアノ曲、歌曲を作曲しました。以下に主な作品を記します。

管弦楽曲・管弦楽を伴った曲
日本組曲 Op.6（1936年）
狂詩曲（1937年）
小交響曲（1937年、弦楽のための）
交響詩「蘆屋乙女」Op.9（1937年）
管弦楽のための「みだれ」（1938年、1947年改訂）
第2組曲 (1939年）
行進曲「南進」（1941年）
勝而不傲（1942年、交響詩曲「皇軍頌歌」第5曲）
チェロ協奏曲イ短調（1943年）
シンフォニエッタ Op.24（1943年、弦楽四重奏のための作品、1944年小管弦楽版改訂）
維納さわり集 (1944年）
ピアノと管弦楽のための狂詩曲変イ長調 Op.21（1943年、1947年改訂）
交響的幻想曲「草原」 Op.19（1944年）
交響的歌曲「いくさうた」 Op.23（1944年、アルトと管弦楽のための作品）
交響的歌曲「斎迫歌（いつきせめうた）」（1945年、ソプラノと管弦楽のための作品）
おほみたからの歌（アルト、バリトン、混声合唱と管弦楽のための作品）
郷土（1945年、小管弦楽のための）
春（1945年、歌と管弦楽のための）
銃後慰安曲「微風」 Op.25（1945年）
架空のバレエのための組曲「夢に踊る」Op.29（1946年）
協奏組曲 Op.28（1946年、ピアノと管弦楽のための）
フルート協奏曲イ長調（1948年室内楽伴奏版、1951年管弦楽伴奏版）
交響曲第1番ホ短調（1948年）
交響的協奏曲（未完、ピアノと管弦楽のための）
ウィーンの呼び声 オーストリア民謡集
はなたちばなの歌（ソプラノ、アルトと管弦楽のための）
室内楽
ヴァイオリンとピアノのためのソナタ（1932年）
ヴァイオリンとピアノのための2つの小品（1937年）
弦楽四重奏曲第1番ト短調 Op.10（1938年）
ピアノ三重奏曲ホ短調（1941年）
チェンバロのための組曲（1941年）
弦楽四重奏曲第2番ニ短調（1943年）
夜曲 Op.16-1（1942年、チェロとピアノのための作品）
夕陽讃歌 Op.16-2（1942年、同上）
パストラーレ（七重奏のための作品）
ピアノ曲
「前奏曲とフーガ」（1934年）
「変奏曲」（1935年）
「ローマンツェ」Op.5（1936年）
「日本組曲」Op.6（1936年）
「子供のためのピアノ小曲」（1937年）
「みだれ」Op.11（1939年）
「ソナチネ」Op.13（1940年）
「三つの肖像画（ポートレ）」（1949年）
歌曲
「万葉集より」(1934年、全6曲)
* 「からまつ」（1950年）

尾高尚忠は、日本の音楽史において重要な役割を果たした人物であり、その音楽は今もなお多くの人々に愛されています。

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