アンティポノス

アンティポノス（古希: Ἀντίφονός, Antiphonos）は、ギリシア神話に登場する人物であり、古代の偉大な都市トロイアの王プリアモスの数多の子息の一人に数えられます。

多くの神話や系譜を伝える文献、例えばアポロドーロスの記した『ギリシア神話』やヒュギーヌスの集めた伝承のリストには彼の名が見られない一方で、ホメーロスによって紡がれた壮大な叙事詩『イーリアス』において、彼はトロイアを巡る激しい戦乱の中に身を投じた王子としてその存在が語られています。

『イーリアス』の中で、アンティポノスは他の兄弟たちと共にトロイア軍の一員としてギリシア勢と戦いました。しかし、トロイアの守りの要であった兄ヘクトールをはじめ、メーストールやトローイロスといった主要な兄弟たちが次々と戦場の露と消え、戦況が絶望的なものとなった時、プリアモス王は生き残った息子たちに対し、激しい言葉でその無力を責め立てました。この時、アンティポノスはヘレノス、パリス、アガトーン、パムモーン、ポリーテース、デーイポボス、ヒッポトオス、ディーオスといった他の八人の兄弟たちと共に、父王の悲しみと怒りの矛先となり、厳しい叱責を受けることとなります。長年にわたる過酷な戦争が多くの犠牲を払い、王国の命運が風前の灯火となる中で、父からのこの痛烈な言葉は、アンティポノスを含む王子たちにとって、耐え難い重圧となったことでしょう。

父の叱責後も、アンティポノスは戦列に留まり、滅びゆくトロイアのために最後まで剣を振るったとされています。しかし、彼の運命もまた、都市と共に尽きる定めでした。ついに迎えたトロイアの落日の時、城壁が破られ、ギリシア軍が市内に殺到する混乱の中で、アンティポノスは兄弟のパムモーン、ポリーテースとともに、アキレウスの勇猛な息子であるネオプトレモスの手にかかって命を落としました。トロイアの王家の多くがそうであったように、彼もまた故郷の滅亡をその目で見た後に、悲劇的な最期を遂げたのです。

アンティポノスの物語は、主にホメーロスの叙事詩を通して伝えられており、彼がプリアモスの王子であり、トロイア戦争において父からの叱責を受け、最終的にネオプトレモスによって討たれたという事実は、『イーリアス』におけるトロイア王家の悲劇的な運命の一端を示すものと言えます。彼の存在は、大戦乱の中で個々の人間がいかに運命に翻弄されたかを示す小さな例として、古代の物語の中に刻まれています。

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