アンドレ・ベルト

アンドレ・ベルト（Andre Berto）は、1983年9月7日にアメリカ合衆国フロリダ州で生まれたプロボクサーです。元WBC、IBFの世界ウェルター級王者であり、またWBA世界ウェルター級暫定王座も獲得しました。

彼の両親はハイチからの移民で、父親のデュセル・バットは総合格闘家やプロレスラーとして知られていました。兄弟も格闘家で、同い年の兄エドソンと妹レヴィナはプロの総合格闘家です。格闘技一家に育ったアンドレも、幼い頃からその才能を開花させていきます。

人物像としては、趣味はケーブルテレビの「フード・ネットワーク」を観ながら友人と連絡を取り合うこと。試合当日は、ココアバターを体に塗って、戦闘映画を鑑賞し闘争心を高めるというユニークな習慣を持っています。

幼少期からアマチュア時代

フロリダ州マイアミで生まれたアンドレは、10歳の時にいじめられた経験から、父親にポリス・アスレチクリーグ・ジムへ通わされます。これがボクシングとの出会いでした。父親は非常に厳格で、反抗すると腕立て伏せ500回を命じるほどでしたが、ロードワークに車で同行するなど、アンドレを熱心にサポートしました。10代後半からは、生計を立てるため地元の宝石店で働き始め、8年間の勤務を経て店長にまで昇進しています。

アマチュアキャリアは輝かしいものでした。2001年にはナショナル・ゴールデン・グローブのライトミドル級で優勝。2003年には階級をウェルター級に移し、ナショナル・ゴールデン・グローブで再び優勝を果たしました。同年、タイのバンコクで開催された世界ボクシング選手権大会では、準決勝で敗れたものの銅メダルを獲得。この準決勝で対戦相手だったロレンソ・アラゴンは、最終的に大会を制しています。2004年のアテネオリンピックには、両親の祖国であるハイチ代表として出場しましたが、惜しくも1回戦で敗退しました。アマチュア時代の戦績は200戦を超えています。

プロボクサー時代

2004年12月4日、プロキャリアをスタートさせました。デビュー戦では3回TKO勝利を飾り、本人曰く苦手だったスウィング・バウトを避け、順調な滑り出しを見せます。プロ初期は快進撃を続け、2006年には年間7試合全てをKOで飾る活躍が評価され、ESPNから新鋭賞を授与されました。2007年5月19日の試合では、14連続KO勝利を記録。同年7月27日に行われたコスモ・リベラ戦では、初の判定決着となったものの、大差の判定で勝利を収めました。この試合はダウンを奪われる場面もあり、ベルト自身にとって最も危なかった試合だったと振り返っています。この時点での戦績は19戦無敗（16KO）、KO率は84%を誇りました。

2007年9月29日、NABF北米ウェルター級王座決定戦でデビッド・エストラーダと対戦。序盤は相手のプレッシャーに押され気味でしたが、打ち合いの中でペースを掴み返し、疲労とダメージの深いエストラーダからダウンを奪い、11回TKOで勝利。NABF王座を獲得するとともに、WBCおよびIBF世界王座への挑戦権を手に入れました。翌2008年2月9日には、元EBU欧州王者のマイケル・トラバントを相手にNABF王座の初防衛に成功しています。

世界王座の獲得と激闘

2008年6月21日、フロイド・メイウェザー・ジュニアの王座返上により空位となっていたWBC世界ウェルター級王座決定戦に臨み、ミゲール・ロドリゲスを7回TKOで下し、念願の世界王座を獲得しました。

初防衛戦は2008年9月27日、元IBF世界スーパーフェザー級王者のスティーブ・フォーブスとの対戦でした。ベテランの巧みなディフェンスに手を焼く場面もありましたが、手数で圧倒し、大差の判定で勝利しました。2009年1月17日には、元WBA世界ウェルター級王者のルイス・コラーゾと対戦。リッキー・ハットンを苦しめたコラーゾ相手に苦戦を強いられるも、激しい打ち合いの末、僅差の判定で勝利し2度目の防衛に成功します。同年5月30日、IBF世界スーパーライト級王者ファン・ウランゴの挑戦を受けました。持ち前のスピードとテクニックでウランゴの攻撃を空転させ、単発の強打を効果的にヒットさせ、大差の判定勝ちで3度目の防衛を果たし、ウランゴの2階級制覇を阻止しました。

2010年1月30日には、WBA世界ウェルター級スーパー王者シェーン・モズリーとの王座統一戦が予定されていましたが、同月に発生したハイチ大地震で親族が被災した影響から、試合ができる精神状態ではないとして辞退を申し入れ、対戦は実現しませんでした。

同年4月10日、約11ヶ月ぶりのリングとなったベルトは、元WBO世界ウェルター級王者カルロス・キンタナと対戦。サウスポーのキンタナに序盤は手こずったものの、被弾覚悟で前に出る戦術が功を奏し、ペースを掌握。8回に集中攻撃を浴びせ、TKO勝利で4度目の防衛に成功しました。2010年11月27日には、フレディ・ヘルナンデスを初回わずか127秒で沈める電光石火のKO勝利で5度目の防衛を果たしました。

しかし、2011年4月16日、ビクター・オルティスとの対戦で、キャリア初の敗北を喫します。強打者同士のこの試合は、互いがダウンを奪い合う壮絶な内容となりましたが、終盤に失速し判定負け。6度目の防衛に失敗し、WBC王座から陥落しました。

捲土重来を期したベルトは、同年9月3日、IBF世界ウェルター級王者ジャン・ザベックに挑戦。ザベックが右目の負傷により試合続行不可能となり、5回終了時に棄権したため、TKO勝利でIBF王座を獲得しました。しかし、ビクター・オルティスとの再戦を優先するため、わずか2ヶ月後の2011年11月にはIBF王座を返上します。

オルティスとの再戦は2012年4月16日に発表されましたが、試合前の薬物検査で陽性反応を示したため中止となりました。これによりしばらくリングから遠ざかりますが、2012年11月24日、1年3ヶ月ぶりの復帰戦でWBC世界ウェルター級暫定王者のロバート・ゲレーロに挑みました。しかし、1回と2回にダウンを喫するなど苦戦し、判定負けを喫し復帰戦を勝利で飾ることはできませんでした。

2013年7月27日、ヘスス・ソト・カラスと対戦。粘り強く攻めるソト・カラスに対し、ペースを掴めない苦しい展開が続きました。11回に意地のボディーブローでダウンを奪うも、最終回に自身もダウンを奪われ、レフェリーストップによるTKO負けを喫しました。これで2連敗となり、トップ戦線からの後退を余儀なくされました。この試合後、長年悩まされていた肩の手術を受けています。

怪我からの回復を経て、2014年9月6日に約1年ぶりの復帰戦を行い、スティーブ・アップシャー・チェンバースに判定勝利。約3年ぶりの白星となりました。

2015年3月13日、キース・サーマンの正規王座認定に伴い空位となったWBA世界ウェルター級暫定王座決定戦でホセシート・ロペスと対戦。6回TKO勝利を収め、WBC、IBFに続く3本目の世界王座（暫定）を獲得しました。ただし、この試合はレフェリーストップが早すぎるとの批判もあり、ストップ時点でのジャッジの採点はロペス有利が多数でした。

同年9月12日、当時のパウンド・フォー・パウンド最強と目されていたWBA・WBC世界ウェルター級スーパー王者フロイド・メイウェザー・ジュニアに挑戦。しかし、メイウェザーの卓越した技術の前に持ち味を発揮できず、判定負けを喫しました。この敗戦により、保持していたWBA暫定王座は正規王座に吸収される形で消滅しました。

2016年4月30日、因縁の相手であるビクター・オルティスと5年ぶりに再戦。前回の敗戦の雪辱を果たすべく臨んだ一戦で、4回TKO勝利を収めました。

その後、WBC世界ウェルター級挑戦者決定戦としてショーン・ポーターとの対戦が組まれましたが、2017年4月22日に行われたこの試合で、ポーターに9回TKO負けを喫し、再び世界王座への挑戦権獲得はなりませんでした。

キャリアの終盤では、2018年8月4日にデボン・アレクサンダーに判定勝利を収めるも、2019年には怪我で試合を欠場するなど、円熟期を迎えます。そして2023年12月17日、11年ぶりにロバート・ゲレーロと再戦しましたが、判定負けを喫し、雪辱を果たすことはできませんでした。

プロでの主な獲得タイトルは、WBC世界ウェルター級王座（5度防衛）、IBF世界ウェルター級王座、WBA世界ウェルター級暫定王座です。強靭なフィジカルと攻撃的なスタイルで、ウェルター級のトップ戦線で長く活躍したファイターです。

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