アンナ・ボレーナ

オペラ『アンナ・ボレーナ』について

『アンナ・ボレーナ』（Anna Bolena）は、ガエターノ・ドニゼッティが作曲した2幕構成のオペラです。1830年にミラノのカルカノ劇場で初演され、16世紀イングランドの歴史を背景に、ヘンリー8世とその2番目の妃アン・ブーリン、そして3番目の妃ジェーン・シーモアの複雑な人間関係を描いています。

作品の背景

原作はイッポリト・ピンデモンテの小説『エンリーコ8世、またはアンナ・ボレーナ』とアレサンドロ・ペーポリの『アンナ・ボレーナ』です。台本はフェリーチェ・ロマーニが手掛けました。このオペラは、ドニゼッティがテューダー朝の女性たちを題材にした「ドニゼッティ女王三部作」の一つとしても知られています。他の2作は『マリーア・ストゥアルダ』と『ロベルト・デヴリュー』です。

初演と評価

1830年12月26日の初演は大成功を収め、ドニゼッティは一躍、ロッシーニやベッリーニと並ぶイタリアオペラ界の巨匠としての地位を確立しました。彼の師であるヨハン・ジモン・マイールも、弟子を「マエストロ」と称賛したと言われています。

上演史

初演後、本作はヨーロッパやアメリカ各地で上演されました。1831年にはロンドンで、1839年にはニューオーリンズで初演されています。19世紀後半には人気が衰えましたが、20世紀後半から再び上演機会が増加しました。特に、1947年のリセウ大劇場100周年記念公演や、1957年のスカラ座初演（マリア・カラス主演）は、このオペラの復活を象徴する出来事でした。

1960年代以降は、「ドニゼッティ・ルネサンス」と呼ばれる再評価運動の中で、多くのソプラノ歌手がアンナ役を演じました。ビヴァリー・シルズは、ニューヨーク・シティ・オペラでテューダー朝三部作を上演し、大きな成功を収めました。

21世紀に入ると、英語圏を中心に上演が増加し、新たな録音も制作されています。2010年にはダラス・オペラが、2011年にはウィーン国立歌劇場やメトロポリタン歌劇場で上演され、話題となりました。

楽曲構成

オペラは、シンフォニアで始まり、以下の構成で展開します。

第1幕

導入:「王は来られたのか？」
ジョヴァンナの登場:「王妃が私をお呼びになった」
シェーナとロマンツァ - アンナのカヴァティーナ:「ああ、取繕わないで」
シェーナと二重唱:「余の持つすべての光は」
シェーナとカヴァティーナ:「彼女を失ったあの日から」
シェーナと五重唱:「私は感じた、この手の上を」
シェーナとカヴァティーナ：「ああ、恍惚の余り」
シェーナと二重唱:「国王が君を憎んでも、私は君を今でも愛している」
第1幕フィナーレ:「皆、黙っておるのか、震えているのか」

第2幕

導入:「ああ、どこに行ってしまったのか」
シェーナと二重唱:「神がその者の頭上に」
合唱、シェーナと三重唱:「どうなった？裁判官の前に」
シェーナとアリア:「このような手に負えぬ炎は」
レチタティーヴォ、シェーナとアリア ：「君は生きるのだ、私はそれを望む」
合唱：「一体誰が直視できよう」
狂乱の場及び第2幕フィナーレ: 「あなたたちは、泣いているの？」

あらすじ

1536年、ロンドンとウィンザー城を舞台に物語は展開します。

第1幕

宮廷では、ヘンリー8世がアンナを見捨て、新しい愛人ジョヴァンナに夢中になっているという噂が広がっています。アンナは、信頼する侍女ジョヴァンナが実は国王の愛人であることを知りません。アンナは、小姓スメトンに歌を求めますが、スメトンは密かにアンナを愛しています。夜明けが近づき、国王が来ないことを悟ったアンナは眠りにつきます。一方、ジョヴァンナとヘンリー8世は、アンナとの離婚とジョヴァンナとの結婚を企てます。

アンナの元恋人ペルシーは、亡命先から帰国しますが、アンナの身を案じます。ヘンリー8世は、ペルシーの赦免がアンナの取りなしであると告げ、アンナへの疑惑を深めます。アンナの私室で、スメトンはアンナの肖像画を見つめ、そこにアンナとペルシーがやってきて、二人の密会を目撃します。そこにヘンリー8世が現れ、アンナとペルシー、スメトンを逮捕します。

第2幕

アンナが軟禁されている部屋で、ジョヴァンナはアンナに罪を自白すれば命は助かると言いますが、アンナは拒否します。ジョヴァンナは、自分がヘンリー8世の愛人であると告白し、アンナを裏切ったことを謝罪します。裁判では、スメトンがアンナとの姦通を認めさせられ、アンナは死刑を宣告されます。ペルシーは、アンナとの結婚を主張しますが、受け入れられません。ジョヴァンナは、ヘンリー8世にアンナの赦免を求めますが、拒否されます。アンナは、狂乱の中で過去を振り返り、ヘンリー8世とジョヴァンナを呪いながら、処刑されるという悲劇的な結末を迎えます。

録音と映像

『アンナ・ボレーナ』は、数多くの録音や映像が残されています。マリア・カラスが主演した1957年のスカラ座公演は、伝説的な名演として知られています。

参考文献

Weinstock, Herbert (1963), Donizetti and the World of Opera in Italy, Paris, and Vienna in the First Half of the Nineteenth Century
Scott, Eleanor (1976), The First Twenty Years of the Santa Fe Opera
Osborne, Charles, (1994), The Bel Canto Operas of Rossini, Donizetti, and Bellini
河原廣之『アンナ・ボレーナ オペラ読本対訳シリーズ40』
ユルゲン・ケスティング、鳴海史生訳『マリア・カラス 没後30年新装版』

関連事項

国王至上法
イングランド国教会
宗教改革

外部リンク

* アンナ・ボレーナの楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト

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