国王至上法

国王至上法とは

国王至上法（Act of Supremacy）は、1534年にイングランド王ヘンリー8世によって制定された法律です。この法律は、イングランド国王を、ローマ・カトリック教会から独立したイングランド国教会の「唯一最高の首長」と定めました。これにより、イングランドにおける宗教的権威はローマ教皇から国王へと移り、イングランド国教会の成立を決定づけました。

この法律は、当初「唯一最高の首長」と規定していましたが、1559年にエリザベス1世が発布した2度目の国王至上法（1558年国王至上法）では、「唯一最高の統治者」と変更されました。

制定の背景

国王至上法の制定には、ヘンリー8世の個人的な事情と、当時の政治・宗教的状況が複雑に絡み合っていました。

ヘンリー8世は、王位継承者となる男子を強く望んでいましたが、王妃キャサリン・オブ・アラゴンとの間には子供が恵まれませんでした。そのような中、キャサリンの侍女であったアン・ブーリンがヘンリー8世の子を妊娠します。しかし、アンが産んだ子が正式な継承者として認められるためには、キャサリンとの離婚が不可欠でした。

ヘンリー8世はキャサリンとの離婚をローマ教皇に認めさせようとしましたが、当時の教皇クレメンス7世は、キャサリンの甥にあたる神聖ローマ皇帝カール5世との関係悪化を恐れ、離婚を認めませんでした。また、ヘンリー8世は国内の教会が王国の法と対立するような独自の法を制定していることにも不満を抱いていました。

このような状況から、ヘンリー8世とローマ教皇の対立は決定的となり、教皇の権威をイングランド国内から取り除くことで、離婚問題を解決しようとしました。

制定までの過程

ヘンリー8世は側近のトマス・クロムウェルを使い、1529年から1536年まで開かれた宗教改革議会で、教皇権を否定する様々な法律を制定しました。これにより、教皇の権威は徐々にイングランドから排除されていきました。

1530年から1531年にかけて、ヘンリー8世は国内の聖職者たちを脅迫し、自らに従わせました。1532年には、聖職者会議から立法権を奪いました。また、議会は司教が教皇庁へ納める初収入税を禁止する法律を可決しましたが、この時点では教皇との完全な離反は検討されていませんでした。

1533年には、教皇との絶縁を宣言する「上告禁止法」が制定されました。この法律により、遺言や結婚、離婚に関する訴訟は、イングランド国内の司法機関で処理されることになり、教皇への上訴は禁止されました。これにより、ヘンリー8世の離婚問題はイングランド国内で解決されることになったのです。

1533年1月には、ヘンリー8世はカンタベリー大[[司教]]トマス・クランマーの立ち合いのもと、妊娠中のアン・ブーリンと極秘結婚しました。そして4月には、クランマーが主宰する法廷で、ヘンリー8世とキャサリンの結婚を無効とし、ヘンリー8世とアンの結婚を合法とする判決が下されました。教皇はこれを認めず、ヘンリー8世を破門しましたが、イングランドの離反を止めることはできませんでした。

国王至上法の制定

そして1534年11月、宗教改革議会において、国王至上法が制定されました。この法律により、イングランド国王は「イングランド国教会の地上における唯一最高の首長」と宣言され、イングランド国教会の成立が決定づけられました。

また、公職や教会の役職に就く者には、国王がイングランド国教会における最高統治者であることを宣誓することが義務付けられました。この宣誓を拒否した者は大逆罪とされ、厳しく罰せられました。しかし、この時点でのイングランド国教会の教義は、カトリックのものとほぼ変わりませんでした。

国王至上法制定に先立ち、聖職者の服従を立法化した聖職者服従法や、王位継承法（第一継承法）も制定され、ヘンリー8世とアン・ブーリンとの間に生まれた子供が正当な王位継承権を持つことが確認されました。しかし、第一継承法に対する宣誓を拒否したトマス・モアとジョン・フィッシャーは、裁判にかけられて処刑されました。

その後の展開

国王至上法の制定は、イングランドにおける宗教改革の重要な転換点となりました。これにより、カトリック教会からの分離が確定し、イングランド国教会が確立しました。

ヘンリー8世は、1536年から1539年にかけて修道院を解散し、その財産を没収しました。この結果、王室の財政は潤い、王権が強化されました。また、没収された教会や修道院の土地は都市開発にも利用され、ロンドンの発展を促しました。

しかし、国王至上法の制定は政治的な側面が強く、イングランド国教会の教義や正統性をめぐっては、エドワード6世、メアリー1世、エリザベス1世の時代に至るまで、様々な議論や混乱が続きました。


国王至上法は、イングランドの歴史における重要な転換点であり、その後のイギリス社会の形成に大きな影響を与えました。

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