アンリ・デラボー

アンリ・デラボー伯爵

アンリ・デラボー伯爵（Henry, comte de La Vaulx、1870年4月2日 - 1930年4月18日）は、19世紀末から20世紀初頭にかけてフランスの航空黎明期において重要な役割を果たした人物です。彼は傑出した気球乗りであると同時に、探検家、そして航空スポーツの国際的な組織化に尽力したパイオニアとして知られています。

生涯と活動

フランスのビエルヴィルに生まれたデラボー伯爵は、若い頃から冒険心に富み、1896年3月から1897年5月にかけては南米パタゴニア地方を訪れ、その経験に基づいた著書を1901年に発表しています。

彼の最も顕著な功績は、航空分野におけるものです。デラボー伯爵は、フランス飛行クラブの設立メンバーの一人として、同国の航空スポーツの発展に初期から関わりました。さらに、航空の国際的な基準や記録を管理する機関の必要性を強く認識し、1905年11月14日には国際航空連盟（Fédération Aéronautique Internationale, FAI）を設立しました。彼はこの重要な国際機関の初代会長を務め、航空スポーツの普及と発展、そして公正な記録認定システムの構築に貢献しました。

また、彼は気球の時代に、現在の航空宇宙関連企業であるゾディアック・エアロスペースの前身となる会社を設立するなど、事業家としての一面も持っていました。

デラボー伯爵は、1930年に飛行のデモンストレーション中に発生した事故により、惜しくもその生涯を終えました。彼の死後、フランス飛行クラブは彼の功績を称え、第1回となる大賞（Grande Médaille de l'Aéro-Club de France）を贈っています。

著書

デラボー伯爵は、自身の探検や航空に関する豊富な知識と経験を基に、数多くの著書を執筆しました。これらは当時の旅行や航空技術、そして航空スポーツの状況を知る上で貴重な資料となっています。

主な著書には以下のようなものがあります（抜粋）：

『Voyage en Patagonie』（パタゴニア旅行、1901年）
『L’Aérostation』（気球術、1906年）
『Les Vainqueurs de l’air ; histoire de l’aéronautique』（空の征服者たち：航空の歴史、1921年）
『L’Aéronautique des origines à 1922』（航空の起源から1922年まで、1922年）

デラボー賞（De la Vaulx Medal）

アンリ・デラボー伯爵の航空史への貢献を称え、国際航空連盟（FAI）は「デラボー賞」を創設しました。この賞は、その前年に顕著な国際飛行記録を樹立した個人またはチームに贈られるもので、航空・宇宙分野における最高の栄誉の一つとされています。

デラボー賞は、長距離飛行、速度記録、高度記録など、様々な分野での卓越した成果を称えて授与されており、その受賞者リストには世界の航空史に名を刻む著名なパイロットやクルーが数多く含まれています。

著名な受賞者（一部抜粋）：

1934年：イタロ・バルボ、フランチェスコ・アジェッロ
1937年：ミハイル・グロモフ、アンドレイ・ユマシェフ、セルゲイ・ダニリン（ANT-25による長距離飛行）
1938年：藤田雄蔵、高橋福次郎、関根近吉（航研機による記録）
1953年：ジャクリーン・コクラン
1960年：コンスタンティン・コキナキ
1994年：向井千秋
1998年：ベルトラン・ピカール
2002年：スティーヴ・フォセット

デラボー賞は、アンリ・デラボー伯爵の遺志を受け継ぎ、世界の航空・宇宙における探求と記録樹立の精神を後世に伝えています。

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