アン・ドゥオン

アン・ドゥオン王：カンボジア近代化の礎を築いた名君

アン・ドゥオン（1796年6月12日 - 1860年10月19日）は、19世紀にカンボジアを統治した国王です。彼の治世は、隣国からの脅威に晒されながらも、カンボジアの近代化を推し進め、国家のアイデンティティを守り抜いた重要な時代として知られています。現在のカンボジア王国憲法にも、国王の条件としてアン・ドゥオン王の血を引くことが明記されており、その功績は現代にも深く影響を与えています。

生涯と業績

アン・ドゥオン王は、アン・エン王の四男として生まれました。当時のカンボジアは、シャム（タイ）とベトナムの二重支配下にあり、政治的に不安定な状況でした。1841年には、ベトナムの阮朝によってカンボジアは併合され、アン・メイ女王をはじめとする多くの官吏が連行されるという苦難を経験しました。阮朝は、カンボジア国民にベトナム式の生活習慣を強要し、従わない者を処刑するなど、過酷な支配を行いました。

このような状況下で、アン・ドゥオンはシャムに滞在し、27年間をバンコクで過ごしました。彼は、シャムのモンクット王子（後のラーマ4世）にカンボジアの古代詩をタイ語に翻訳して贈るなど、詩人や文学者としても活動しました。1845年、シャムと阮朝の協議によりカンボジアは主権を回復し、アン・ドゥオンが国王に即位しました。即位式は1847年にウドンで挙行されました。

国王となったアン・ドゥオンは、シャムとベトナムからの脅威に常に警戒しながら、国家の安定と発展に尽力しました。彼は、メコン川を境に両国が国土を分断することを危惧し、1853年にはフランス皇帝ナポレオン3世に保護を求める書簡を送りました。しかし、この計画はシャムに察知され、取り下げざるを得ませんでした。

アン・ドゥオン王は、財政や各制度の近代化整備にも努め、国内に多くの寺院を建立しました。彼のフランスへの接近は、後にカンボジアがフランスの保護国となる道を開いたとも言えます。しかし、結果としてシャムやベトナムの脅威からカンボジアの文化や伝統などのアイデンティティを守り、現代に続くカンボジア王国の基礎を築いた国王として、その功績は高く評価されています。

アンコール・ワットの発見

1859年、フランス人探検家のアンリ・ムオがカンボジアを訪れ、ウドンでアン・ドゥオン王と息子のノロドム副王に謁見しました。ムオはその後、探検を続け、1860年1月22日にシェムリアプのジャングルで巨大な遺跡を発見しました。これが、世界的に有名なアンコール・ワットです。アンコール・ワットの発見は、カンボジアの歴史と文化に対する国際的な関心を高めるきっかけとなりました。

アン・ドゥオン王は、カンボジアの激動の時代に、国家の独立と文化を守り抜き、近代化の礎を築いた名君として、今もなおカンボジア国民から敬愛されています。


参考文献:
フーオッ・タット（今川幸雄訳） 『アンコール遺跡とカンボジアの歴史』 めこん、1995年。ISBN 978-4839600952。
アンリ・ムオ（大岩誠訳） 『インドシナ王国遍歴記: アンコール・ワット発見』 中央公論新社 （中公文庫BIBLIO）、2002年。ISBN 978-4122039865。

外部リンク:
* カンボジア文学史概説-東京外国語大学（岡田知子）

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