アークティック・ロール

アークティック・ロール

アークティック・ロール（英語: Arctic roll）は、イギリスで広く親しまれている冷たいデザートです。「北極のロールケーキ」を意味するこの菓子は、日本の一般的なロールケーキとは異なる特徴を持ち、イギリスの食文化の中で独特の地位を築いてきました。

デザートの構成と楽しみ方

このデザートの基本的な構成は、バニラ風味のアイスクリームを芯とし、それを薄いスポンジケーキで筒状に巻き込んだものです。クリームやジャムを生地と共に渦巻き状にする日本のロールケーキとは異なり、シンプルな構造が特徴です。

通常、冷凍された状態で販売されており、家庭の冷凍庫で保管します。食べる際には、冷凍状態のままナイフを使って適切な厚さにスライスします。手軽さが魅力で、子供たちのおやつとして、また生フルーツやソースを添えてデザートとしても楽しまれています。

その価格も大きな特徴の一つです。2021年頃のデータでは、スーパーマーケットで6人分程度が入った1本が1ポンド前後と非常に安価でした。中にはさらに価格の低いプライベートブランド製品もありましたが、フードライターの中には「凍ったカーペット」と揶揄するような低品質な製品も存在したことが伝えられており、価格と品質には幅があるようです。

普及と変遷の歴史

アークティック・ロールは、チェコスロバキアからの移民であり弁護士でもあったアーネスト・ヴェルデン氏によって考案されました。イギリスで家庭用冷凍庫の普及が進み、冷凍食品への関心が高まっていた時代背景に着目したヴェルデン氏は、1968年にイングランドのイーストボーンに工場を設け、製造を開始しました。

翌1969年には、運営は食品大手のバーズアイ社に引き継がれます。1970年代から1980年代にかけて、アークティック・ロールはイギリス全国に広く浸透し、日常の食後のデザートとして、あるいは家族や友人を招いた際のパーティーメニューとして、家庭で欠かせない存在となりました。特に1980年代前半には、1ヶ月に製造される総量が約25マイル（約40キロメートル）に達するなど、大量に消費されていました。考案者ヴェルデン氏には、この革新的なデザートの開発が評価され、1983年にOBE勲章が授与されています。

しかし、1990年代に入ると状況は変化します。1982年にユニリーバが発売したビエネッタや、ベイクド・アラスカといった新たなアイスクリームデザートが登場し人気を集める中で、アークティック・ロールの勢いは衰え始めました。大手メーカーが生産を打ち切る事態も起こります。

再び脚光を浴びたのは、2008年頃の世界的な金融危機、いわゆるリーマン・ショック以降でした。経済的な先行き不安から、消費者は手頃な価格の食品を求めるようになり、アークティック・ロールは「安くて美味しいデザート」として再評価されました。これに伴い需要と人気が回復し、バーズアイ社も2008年から再び販売を開始しています。

このように、アークティック・ロールは時代の波に乗り、また時にはその影響を受けながらも、手頃な価格と手軽さでイギリスの家庭に根ざしたデザートとして存続しています。

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