アーク・ロイヤル (空母・初代)

アーク・ロイヤル(91): イギリス海軍を代表する空母

アーク・ロイヤル(HMS Ark Royal, 91)は、イギリス海軍が保有した航空母艦です。同型艦を持たない本艦は、アメリカ海軍のヨークタウン級や大日本帝国海軍の蒼龍型と並び、第二次世界大戦における中型空母の完成形として高い評価を受けています。その設計思想、防御力、そして実戦での活躍は、イギリス海軍史、ひいては第二次世界大戦史において重要な位置を占めています。

誕生の背景

ワシントン海軍軍縮条約により、イギリス海軍は13万5000トンの空母建造枠を確保しました。しかし、既存の6隻の空母で既に11万5455トンを消化していたため、残された建造枠は2万トン弱でした。この限られた枠を最大限に活用して建造されたのが、アーク・ロイヤルです。

当初の設計案では飛行甲板長274mという大きさでしたが、建造ドックの制限や第二次ロンドン条約の基準排水量2万3000トンという制約を考慮し、全長を短縮する改設計が行われました。最終的に、基準排水量2万2000トン（満載排水量2万7720トン）の空母として1934年度計画で建造が承認され、キャメル・レアード社（バーケンヘッド）で建造されました。

艦形の特色

アーク・ロイヤルは、船体短縮と空母としての性能の両立を追求した結果、独特の艦形となりました。水線長208.8m、LB比（水線長／幅）7.2という非常に肥満型の船体で、これは同時代の飛龍(LB比10)やヨークタウン(9.2)と比較しても顕著な特徴です。むしろ戦艦に近い形状と言えるでしょう。

短くなった船体に最大限の飛行甲板長を確保するため、飛行甲板は船体よりも前後方向に延長され、特に艦尾方向に大きくオーバーハングした設計となっています。その結果、243.8m×29mという広い飛行甲板を確保することに成功しました。艦首は飛行甲板と一体化され、エンクローズド・バウ(艦首を閉じ込めた構造)となっています。また、飛行甲板高は18.3mと高く、これは搭載機数の確保と艦内機関スペースの大きさの影響が大きいとされています。搭載機数確保のため、格納庫は2段式が採用されました。アイランド(艦橋構造物)は船体サイズに比べて比較的コンパクトにまとめられ、1本の煙突は高く伸ばされて設計されています。

防御と武装

アーク・ロイヤルは、15.2cm砲弾、227kg爆弾の急降下爆撃、炸薬量340kgの魚雷に対する防御能力を備えており、当時の空母としては非常に高い防御力を誇っていました。舷側水線部には高さ4.08mの114mm装甲、機関区と燃料タンクを守る隔壁には64mmから76mm装甲が施され、水線下は38mm装甲と縦隔壁による3層構造で、浸水を防ぐ工夫が凝らされています。飛行甲板には装甲が施されていませんでしたが、格納庫、機関室、弾薬庫など重要な部位には厚い装甲が施されていました。

武装は、新設計の11.4cm(45口径)高角砲を8基、4cmポンポン砲を6基、12.7mm機関銃を8基搭載していました。高角砲は、39.5kgの砲弾を最大射程18,970m、最大射高12,500mまで届かせることが可能でした。

航空艤装と搭載機

アーク・ロイヤルは最大72機の艦載機を運用することを目標に設計されましたが、実際には60機程度に留まりました。格納庫は密閉式で、上段(長さ173.1m×幅18.3m)、下段(長さ137.8m×幅18.3m)の2段構造となっています。艦首には油圧式カタパルト2基、エレベーター3基が装備され、着艦制動索は8本が設置されていました。航空機用ガソリンは10万英ガロンが搭載されていました。

機関

アーク・ロイヤルは、ヤーロウ式水管缶6基とパーソンズ式オール・ギヤードタービン3基3軸推進という、当時としては珍しい機関構成を採用していました。出力は10万2000馬力、速力31ノットを達成しました。この3軸推進は、艦体の小型化による4軸推進の困難さと、出力不足のリスクを軽減するため、採用されたものです。重油搭載量は4620トンで、航続距離は16ノットで6650浬、14ノットで1万2000浬を確保していました。機関配置は被弾や浸水時の被害を最小限に抑えることを重視した配置でしたが、その結果、LB比の低下の要因の一つにもなりました。

戦歴

アーク・ロイヤルは第二次世界大戦開戦と同時に対潜哨戒任務に就き、数々の戦闘に参加しました。Uボート撃沈、ドイツ軍艦の捜索、ノルウェー戦線への参加、地中海での作戦、そしてビスマルクの撃沈など、重要な役割を担いました。マルタへの補給、護衛任務にも多く関与し、連合軍の戦略に大きく貢献しました。しかし、1941年11月13日、ジブラルタル帰還途中にドイツ潜水艦U-81の雷撃を受け、沈没しました。この沈没は、イギリス海軍にとって大きな損失となりましたが、その艦歴は、イギリス海軍の勇気と献身を物語るものです。

沈没とその後

アーク・ロイヤルは、ジブラルタル沖でU-81の魚雷攻撃を受け沈没しました。調査委員会の報告書では、被雷後の対応の不備やバックアップ電源の不足などが原因として指摘されました。2002年、アーク・ロイヤルの残骸はジブラルタル沖の海底で発見され、その姿は、多くの犠牲を払って戦った空母の悲劇的な最期を物語っています。アーク・ロイヤルの戦歴は、多くの文献や資料で詳しく記録されており、第二次世界大戦における空母の役割を理解する上で貴重な資料となっています。

もう一度検索