ウィリアム・S・ギルバート

ウィリアム・シュベンク・ギルバート：喜歌劇の巨匠

ウィリアム・シュベンク・ギルバート（William Schwenck Gilbert, 1836年11月18日 - 1911年5月29日）は、イギリスの劇作家、リブレット作家、詩人、イラストレーターとして多岐にわたる才能を発揮しました。特に、作曲家アーサー・サリヴァンとの共作による14の喜歌劇（サヴォイ・オペラ）で広く知られています。

生涯と業績

ギルバートは、サヴォイ・オペラとして知られる一連の作品で、その名を音楽史に刻みました。中でも、『軍艦ピナフォア』、『ペンザンスの海賊』、そして歌劇場の歴史において最も多く上演された作品の一つである『ミカド』は、彼の代表作として世界中で愛されています。

これらの作品は、英語圏の歌劇団やレパートリー劇団、学校、コミュニティ劇団など、様々な団体によって繰り返し上演され、その人気は衰えることがありません。ギルバートの作品は、そのユーモアと風刺に満ちた台詞によって、英語の慣用句としても定着しており、「素早く厳しい罰」、「何、一度も無い？それではほとんど無い！」、「犯罪に罰を合わせよう」といったフレーズは、彼の作品から生まれたものです。

ギルバートはまた、『バブ・バラーズ』という軽妙な詩集を自作のコミカルな絵を添えて発表しました。彼の作品は、75以上の劇や喜歌劇、物語、詩、歌詞など、コミックからシリアスなものまで多岐にわたります。その劇とト書きの現実主義的なスタイルは、オスカー・ワイルドやジョージ・バーナード・ショーといった後世の劇作家に影響を与えました。「ケンブリッジ英米文学史」によれば、ギルバートの「抒情的な腕前と韻律に精通していたことが、喜歌劇の詩的な質を以前には到達されていなかった、さらにそれ以後も到達できていない地位に上げた」と評価されています。

生い立ち

ギルバートは1836年11月18日にロンドンのストランドで生まれました。父は海軍軍医であり、後に小説家となりました。母は薬剤師の娘でした。両親は厳格であり、ギルバートはどちらとも親密な関係を築けませんでした。ギルバートには3人の妹がおり、幼少期には家族でイタリアやフランスを旅しました。彼は幼い頃から「バブ」と呼ばれ、後に名付け親にちなんで「シュベンク」と呼ばれるようになりました。

初期の経歴

ギルバートはフランスやロンドンの学校で教育を受け、キングス・カレッジ・ロンドンを卒業しました。クリミア戦争の終結により軍への道は閉ざされ、行政職に就きましたが、その職を嫌っていました。その後、民兵隊に加わり、大尉まで昇進しました。1863年に遺産を受け継ぎ、行政職を辞めて弁護士となりましたが、法律実務は成功しませんでした。

1861年から、ギルバートは収入を補うために、物語、喜劇の吹き出し、挿絵、演劇評論などを執筆し、「バブ」というペンネームでコミック雑誌に挿絵入り詩を寄稿しました。また、ロンドンの雑誌に物語や記事、評論を掲載し、「イラストレイテッド・ロンドン・タイムズ」には劇評を書いていました。1870年には、「オブザーバー」紙の従軍特派員として普仏戦争の取材にもあたりました。

ユーモア詩と『バブ・バラーズ』

ギルバートがユーモアを込めて作った詩は人気を博し、『バブ・バラーズ』として単行本になりました。これらの詩は、後に彼の戯曲や喜歌劇の材料として利用されることになります。ギルバートは、トム・ロバートソンやトム・フッド、クレメント・スコットといった仲間たちと交流し、アランデル・クラブやサベージ・クラブ、エバンスのカフェなどを頻繁に訪れました。

結婚と家庭生活

ギルバートは1867年にルーシー・アグネス・ターナーと結婚しました。彼女は11歳年下で、「キティ」と呼ばれていました。ギルバートは長年にわたり、ルーシーに多くの愛情あふれる手紙を送りました。夫妻はロンドンやグリムズダイクで社交活動を行い、ディナーパーティーを主催したり、他の家に招待されたりしていました。ギルバート夫妻には子供がいませんでしたが、多くのペットを飼っていました。

最初の戯曲

ギルバートは学校で多くの戯曲を書き、監督しましたが、プロとして最初に制作した劇は『アンクル・ベビー』であり、1863年に上演されました。その後、チャールズ・ミルワードと共同でパントマイムを制作し、1867年には『ダルカマラ、あるいはリトルダックとグレートカック』で初めて単独で成功を収めました。この作品は、ドニゼッティの『愛の妙薬』をバーレスクにしたもので、高い評価を得ました。その後も、オペラのバーレスクやパントマイム、笑劇を制作し、駄洒落を多用しながらも、風刺の兆候を示しました。

サリヴァンとの共作

1871年、ギルバートはジョン・ホリングスヘッドの依頼で、サリヴァンと共同でクリスマスのための作品『Thespis, or The Gods Grown Old』を制作しました。この作品は成功を収めましたが、その後しばらくの間、ギルバートとサリヴァンは別々の道を歩みました。1875年、リチャード・ドイリー・カートの依頼で、ギルバートはサリヴァンと再び共同で『陪審員裁判』を制作しました。この作品は大きな成功を収め、他の劇場でも再演されました。

サヴォイ・オペラ

1877年、カートはコメディオペラ劇団を結成し、ギルバートとサリヴァンの作品を上演し始めました。1878年には、『H.M.S. ピナフォア』が上演され、大成功を収めました。その後も、『ペンザンスの海賊』、『忍耐』、『Iolanthe』、『プリンセス・アイダ』、『ミカド』、『Ruddigore』、『The Yeomen of the Guard』、『ゴンドラの船頭達』といった作品が次々と上演され、ミュージカルの歴史に名を刻みました。

カーペットの喧嘩と共作の終了

ギルバートとサリヴァンの関係は、互いの役割や性格の違いから、しばしばぎくしゃくしていました。1890年、『ゴンドラの船頭達』の上演中に、ギルバートはカートに制作費用について文句を言い、サヴォイ劇場のロビーに新しいカーペットを敷いた費用をカートが共同経営者に請求したことに反発しました。この一件がきっかけとなり、ギルバートとサリヴァンの関係は悪化し、共作は一時的に中断されました。

和解と晩年

1891年、ギルバートとサリヴァンの仲介に音楽出版者のトム・チャペルが入り、2人は和解しました。その結果、1893年の『Utopia, Limited』と1896年の『The Grand Duke』が制作されましたが、いずれも成功を収めることはできませんでした。サリヴァンの死後、ギルバートは「リブレット」を書くのを止めました。

ギルバートは1907年にナイトに叙せられました。1911年5月29日、ギルバートは自宅の湖で水泳を教えていた際に心臓発作を起こし、亡くなりました。彼の遺灰はスタンモアの教会に埋葬されました。

人となり

ギルバートは怒りっぽい性格として知られていましたが、多くの人々は彼の寛大さを証言しました。女優のメイ・フォーテスキューは、「彼の親切さは異常だった」と回想しています。また、ジョージ・グロススミスは、「彼は寛大で親切で真の紳士だった」と語っています。

遺産

ギルバートの遺産は、ガーリック劇場を建てたことや、サヴォイ・オペラなどその創作から125年以上経ったあとも上演され、印刷されている作品群の他に、今日でもアメリカとイギリスのミュージカル劇場に影響力を強く残し続けていることが挙げられます。彼の作品は、演じられるだけでなく、しばしば喜劇の定番、映画、テレビなど大衆メディアで、パロディー化され、模倣され、引用され、物まねの種にされています。

イアン・ブラッドリーは2011年のギルバート死後100周年に関連して、「ギルバートの作品は、今日もなお、私たちを笑わせ、考えさせ、楽しませてくれる」と述べています。

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