アーシュラマ

アーシュラマ：ヒンドゥー教における人生の四段階

アーシュラマ（āśrama）とは、ヒンドゥー教社会において、バラモン、クシャトリヤ、ヴァイシャの3つの上位カーストに属する男子の人生を4つの段階に区分する概念です。古代インドのバラモン教にその起源を持ち、「四住期」とも呼ばれます。それぞれの段階は、個人の宗教的・社会的な役割と義務を明確に規定しています。

アーシュラマの4段階

アーシュラマは、以下の4つの段階から構成されます。

1. 学生期（梵行期、ブラフマチャリヤ、brahmacarya）： この段階では、若い男性はグル（師）のもとでヴェーダなどの聖典を学び、精神的な鍛錬を行います。これは、知識と徳を身につけるための重要な期間であり、社会への貢献のための基礎を築く時期です。一般的には8歳から25歳頃までが該当するとされています。

2. 家住期（ガールハスティヤ、gārhasthya）： 学生期を終えた男性は、結婚し家庭を持ちます。家長として家族を養い、社会に貢献する役割を担います。この段階では、宗教的義務に加え、経済的な安定や子孫繁栄も重視されます。これは、社会の維持と発展に貢献する重要な段階です。

3. 林住期（ヴァーナプラスタ、vānaprastha）： ある程度の年齢に達し、社会的な役割を終えた男性は、家庭を離れ森林に隠棲します。ここでは、世俗的な欲望から離れ、精神的な修行に専念します。これは、解脱への道を求める段階であり、自己実現を目指す期間です。

4. 遊行期、遍歴期（サンニヤーサ、saṃnyāsa）： 林住期を経て、さらに深い精神修行を求める男性は、一切の所有物を持たず、托鉢しながら各地を遍歴します。この段階では、完全に世俗的な生活から離れ、解脱のみを追求します。これは、人生の最終段階であり、究極の精神的な自由を目指します。

アーシュラマとヴァルナ制度

アーシュラマは、ヒンドゥー教社会のカースト制度であるヴァルナ制度（varṇavyavasthā）と密接に関連しています。バラモン、クシャトリヤ、ヴァイシャの3つの上位ヴァルナに属する男性だけが、アーシュラマの4段階を経験するとされています。下位カーストであるシュードラは、この制度の対象外です。

アーシュラマの実際

アーシュラマの制度は、理想的な人生モデルとして提示されていますが、歴史的に見て、全ての男性が厳密に4段階を順次経験したわけではありません。特に、遊行期に入る男性は少数派でした。

アーシュラマと人生の目的

ヒンドゥー教では、人生の三大目的としてダルマ（宗教的義務）、アルタ（財産）、カーマ（性愛）が挙げられています。アーシュラマ制度は、これらの目的を段階的に達成するための道標として機能しています。特に家住期においては、ダルマ、アルタ、カーマの調和が重視され、家庭生活と社会貢献を通して人生の目的を達成することが理想とされています。

アーシュラマの変遷

アーシュラマ制度の規定は、時代とともに変化を遂げてきました。初期の文献では、学生期以降の各段階の選択に自由度があったとされていますが、『マヌ法典』などでは、4段階が厳格な順序で経験されるべきものとして規定されています。これは、出家主義と家長主義を統合しようとする試みと解釈されています。

現代におけるアーシュラマ

現代では、アーシュラマという用語は、宗教的修行の場所、つまり行者の隠棲所や寺院、あるいはインド系新宗教の大規模施設を指す場合もあります。西洋の文脈では、特に後者の意味合いで用いられることが多く、「リトリート」と呼ばれることもあります。

参考文献

藤井毅『インド社会とカースト〈世界史リブレット86〉』山川出版社
宮本久義「ヒンドゥー教の根本思想」『ヒンドゥー教の事典』東京堂出版
* 他の参考文献（省略）

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