イクティノス

イクティノス（古代ギリシア語: Ἰκτῖνος、ラテン語: Ictinus）は、紀元前5世紀中頃に活躍した古代ギリシアの著名な建築家です。彼の名は、古代の文献を通じて後世に伝えられており、特にパルテノン神殿の建設における重要な役割が広く知られています。彼は同時代の建築家カリクラテスと共に、この壮大な神殿の建設を指揮したとされています。

パルテノン神殿は、アテネのアクロポリスに位置し、女神アテナを祀るために建てられました。ドーリア式の建築様式を代表するこの神殿は、古代ギリシア建築の最高傑作の一つとみなされています。イクティノスは、この神殿の設計と建設において、美的感覚と技術力を遺憾なく発揮しました。彼の緻密な計算と完璧を追求する姿勢は、パルテノン神殿の美しいプロポーションと調和を生み出し、後世の建築家に多大な影響を与えました。

さらに、イクティノスはパウサニアスによって、バッサイのアポロ・エピクリオス神殿の建設者としても言及されています。この神殿は、外周がドーリア式、内側がイオニア式という異なる様式を組み合わせた斬新なデザインが特徴です。また、既知の建築物の中では初めてコリント式の柱頭を内陣の後部中央に使用したとされています。この事実からも、イクティノスが既存の建築様式にとらわれず、新しい技術やデザインを積極的に導入していたことが窺えます。

イクティノスは、エレウシスのテレステリオン（エレウシスの秘儀に使われた巨大なホール）の建築家としても伝えられています。テレステリオンは、古代ギリシアの宗教儀式において重要な役割を果たした場所であり、イクティノスの建築家としての多才さを示しています。

イクティノスは、その建築作品を通して、古代ギリシアの文化と芸術の発展に大きく貢献しました。彼の作品は、古典建築の規範として後世に受け継がれ、ルネサンスや新古典主義の建築家たちにインスピレーションを与えました。

ドミニク・アングルの絵画「ピンダロスとイクティノス」は、イクティノスの歴史的な重要性を物語るものです。この絵画は、古代ギリシアの偉大な詩人ピンダロスとイクティノスを並べて描いており、彼らが当時の社会において重要な存在であったことを示唆しています。この絵画は現在、ロンドンのナショナル・ギャラリーに所蔵されており、多くの人々に鑑賞されています。

イクティノスの詳細な生涯については、文献資料が限られているため、不明な点も多く残されています。しかし、彼の建築作品と、後世に残された記録を通して、彼の才能と功績を理解することができます。イクティノスは、古代ギリシア建築史において、最も重要な建築家の一人として、その名を永遠に刻んでいます。


関連人物
* カリクラテス：パルテノン神殿の建設を共同で指揮した建築家。

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