バッサイ

バッサイとは

バッサイ（Bassae / Bassai, Vassai / Vasses）は、古代アルカディア地方に位置する遺跡で、現在のギリシャのメッシニア県北東部にあります。この地名は「岩々の小さな谷間」を意味し、紀元前5世紀半ばに建てられたアポロ・エピクリオス神殿が良好な状態で保存されていることで知られています。

地理的に主要なポリスから離れているにもかかわらず、その特異な建築様式から古代ギリシアの神殿の中でも特に詳細に研究されており、ギリシャの世界遺産の中で最初に登録された場所の一つです。

アポロ・エピクリオス神殿

この神殿は、アポロ・エピクリオス（「加護を与える神アポロ」）に捧げられたもので、『ギリシャ記』を記したパウサニアスは、建築家イクティノスがヘファイストス神殿やパルテノン神殿と共にこの神殿を建てたと記しています。

パウサニアスは、この神殿の石の美しさと建築の調和を高く評価し、テゲアのアテナ・アレア神殿を除く全ての神殿を凌駕すると述べています。

コティリオン山の中腹、海抜1131mの場所に建てられており、神殿は南北方向に配置され、正面入口は北側にあります。これは、通常のギリシャ神殿が東西方向に配置されるのとは対照的です。この配置は、山の斜面という立地条件や、山裾からの視覚効果を意識した可能性があります。

土台となる床は38.3m x 14.5mと比較的控えめな大きさで、神殿内部の柱はドーリア式の周柱式で、正面に6本、側面に15本が配置されています。天井は失われており、中心部は青空天井となっています。神殿の建材は、大理石のフリーズを除き、アルカディア地方で産出された灰色の石灰岩が使われています。

神殿の構成は、入口のプロナオス、本殿のナオス、そしてオピストドモスという3つの要素から成り立っています。ナオスにはかつてアポロの神像があったと考えられています。

建築様式

バッサイの神殿は、ドーリア式、イオニア式、コリント式の3つのギリシア建築様式を融合させた珍しい例です。ドーリア式の柱は外周を囲み、イオニア式はポーチを支え、コリント式は本殿内部に用いられています。この神殿に残るコリント式の柱頭は現存する最古のものであり、建築史において重要な意味を持ちます。

外部の装飾は比較的少ないものの、内部にはアマゾネスと戦うギリシア人や、ケンタウロスと戦うラピテス族を描いたイオニア式のフリーズで飾られています。このフリーズは後にチャールズ・コックレルによって取り外され、大英博物館に収蔵されました。

再発見と発掘

バッサイ神殿は、1765年にフランス人建築家ジョアシャン・ボシェによって最初に言及されました。しかし、ボシェは二度目の調査中に殺害されてしまいます。

1811年、チャールズ・コックレルとハラー・フォン・ハラーシュタインが発掘を始め、1812年にはコックレルとオットー・マグヌス・フォン・シュタッケルベルクの指揮下で本格的な発掘調査が行われました。この時、フリーズなどが発見され、大英博物館に落札されています。

1836年には、カール・ブリューロフの指揮下でロシア人考古学者による詳細な調査が行われ、現存最古のコリント式柱頭が発見されました。その後も、1902年、1959年、1970年、1975-79年に発掘調査が行われています。

保存状況

バッサイはパウサニアスによって言及された唯一の場所です。都市部から離れた場所にあるため、戦争や後の宗教建築への転用の被害を免れることができました。また、酸性雨の影響も比較的少なく、良好な状態で保存されています。

現在、神殿は白いテントで覆われ、アテネに本拠地を置くアポロ・エピクリオス委員会によって保全作業が行われています。

世界遺産登録

バッサイのアポロ・エピクリオス神殿は、1986年にユネスコの世界遺産に登録されました。登録基準は以下の通りです。

(1) 人類の創造的才能を表現する傑作である。
(2) ある期間を通じて、またはある文化圏において、建築、技術、記念碑的芸術、都市計画、景観デザインの発展に関し、人類の価値の重要な交流を示すものである。
* (3) 現存する、または消滅した文化的伝統または文明の、唯一の、または少なくとも稀な証拠である。

バッサイのアポロ・エピクリオス神殿は、その独創的な建築様式と歴史的価値から、古代ギリシア建築の重要な例として、世界的に認知されています。

もう一度検索