イシイルカ

イシイルカ（Phocoenoides dalli）

イシイルカは、クジラ目に属するハクジラ亜目の小型海洋哺乳類で、ネズミイルカ科のイシイルカ属に分類されます。イシイルカ属には本種のみが含まれています。

呼称

学名の種小名「dalli」や英語名の「Dall's Porpoise」は、アメリカの動物学者であるW. H. Dall氏にちなんで名付けられました。英語では、体側の白い模様から「White-flanked porpoise（白い胴体のネズミイルカ）」という別名で呼ばれることもあります。また、このイルカが海面近くを高速で泳ぐ際に立てる、特徴的な形状の水しぶきは「Rooster tail」として知られています。

分類と形態

イシイルカには、主に体色のパターンが異なる2つのタイプ、あるいは亜種が存在します。一つは広範な海域に分布する「イシイルカ型（Dalli型、学名: Phocoenoides dalli dalli）」、もう一つは分布域が限定的な「リクゼンイルカ型（Truei型、学名: Phocoenoides dalli truei）」です。

ネズミイルカ科の中では比較的大きな種類で、成熟した個体は体長が最大240センチメートル、体重は130キログラムから200キログラム程度に達します。生まれたばかりの子どもは体長約1メートル、体重約25キログラムです。その独特な体型は、他のクジラ目の種類と容易に見分けることができます。頭部は小さいのに対し、胴体はずんぐりしており、胸びれも小さく頭部に近い位置にあります。背びれは体のほぼ中央に位置し、基部が広く三角形で大きいのが特徴です。尾びれは扇形をしており、両端が前方に湾曲し、中央にはっきりとした切れ込みがあります。体色はシャチにやや似ており、全体が非常に濃い灰色から黒色で、胸びれの後方から体側にかけて鮮やかな白色のパッチがあります。体色の境界線は明瞭です。背びれの先端や尾びれの後縁は白または明るい灰色をしています。

生態

イシイルカは非常に活発なイルカとして知られています。海面すれすれを波しぶきを上げながら高速で泳ぎ、時にはジグザグに進路を変えたり、突然海面に現れたり隠れたりします。小型のクジラ目の中では最も速い部類に入り、最高時速は約55キロメートルに達すると言われています。人間の船に興味を示すことが多く、船首波に乗って遊ぶ姿がよく見られますが、船の速度が遅いと興味を失って離れることもあります。通常は2頭から10頭程度の比較的小さな群れで行動することが多いですが、これは強い社会的な結びつきというよりも、単に良い餌場に集まっているだけかもしれません。稀に、千頭を超える巨大な群れを形成することもあります。寿命は約15年と考えられています。

食性は主に魚類や頭足類で、ニシン、イワシ、サバといった群れをなす魚類を餌としてよく捕食します。

異種間交配の可能性

遺伝子解析により、イシイルカとネズミイルカの交雑個体が存在することが報告されています。例えば、ブリティッシュコロンビア州で発見された胎児がその例として挙げられます。また、バンクーバー島沖で観察される、ネズミイルカに似た特徴を持ちながら通常と異なる体色のイシイルカは、イシイルカとネズミイルカの交雑に由来するという説も存在します。

分布と生息数

イシイルカの主な生息域は北太平洋の寒帯および温帯海域です。イシイルカ型は南カリフォルニア州から南日本にかけての広範囲に分布し、日本海やベーリング海にも生息しています。一方、リクゼンイルカ型は日本列島の北から東の太平洋北西部に限定的に分布しています。多くのネズミイルカ科の種とは異なり、沿岸部よりも水深の深い外洋を好む海洋性の性質を持っています。沿岸に接近することもありますが、基本的に深い海域に留まる傾向があります。

正確な生息数は把握されていませんが、その分布域においては珍しい種類ではないと考えられています。高速で移動し、人間の船に接近するといった習性があるため、正確な個体数を調査することが難しい要因となっています。全世界での生息数は数十万頭と推定されており、オホーツク海に最も多くの個体が生息している可能性が示唆されています。

人間との関り

イシイルカは毎年多くの個体が漁業活動における混獲によって犠牲になっています。しかしながら、現在のところ、多くの生息域では混獲が生息数全体に致命的な影響を与えるほどではないと考えられています。より深刻な影響を与える可能性のあるものとして、日本などで行われている捕獲が挙げられます。1980年代半ばの大型鯨類捕獲禁止（モラトリアム）以降、イシイルカなどの小型鯨類の捕獲数が増加し、1988年には年間4万頭が捕獲された記録もあります。ただし、2011年の東日本大震災以降は、捕獲量が大幅に減少しています。

食料としてイシイルカの肉を利用する場合、体内に含まれる微量の水銀に注意が必要です。日本の厚生労働省は、妊婦が摂取量を注意すべき魚介類の一つとしてイシイルカを挙げており、一度に食べる量を約80グラムとした場合、週に2回まで（1週間あたり160グラム程度）を目安とするよう推奨しています。

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