イシュプイニ

イシュプイニ

イシュプイニ（在位：紀元前828年頃 - 紀元前810年頃）は、古代国家ウラルトゥの王であり、その治世は王国の勢力拡大と中央集権化を特徴づけます。彼は、ウルミア湖の南方にまで領土を拡大し、軍事改革と宗教改革を推し進めました。

来歴と征服

サルドゥリ1世の息子として生まれたイシュプイニは、父王の跡を継ぎ、「ナイリの王、偉大なる王、世界の王」を名乗りました。彼は、軍制改革を断行し、ウラルトゥを当時のオリエントにおける強国の一角にまで高めました。特に南方への勢力拡大に尽力し、マンナエ人の都市ムサシルを攻略しました。この出来事は、彼の息子であるメヌアが残したケリシン碑文からも確認できます。ムサシルは、征服後ハルディ神に捧げられ、ウラルトゥの重要な宗教都市となりました。同時に、この地域は鉄の重要な産地でもありました。

イシュプイニは、ウラルトゥの版図をヴァン湖とウルミア湖の間に広げ、南方の宿敵であったアッシリア帝国のシャムシ・アダド5世やその王妃シャンムラマトとも戦いました。また、アラス川の北方から南下してくる遊牧民を撃退したとも伝えられています。

宗教改革

イシュプイニは、ウラルトゥをより強固な中央集権国家とするために、宗教改革を推進しました。彼は、ウラルトゥの主神であるハルディの祭祀中心地を、新たに獲得したムサシルに定めました。さらに、太陽神シヴィニや冥界神テイシェバなど、多神教の神々を組織化し、パンテオンを整備しました。この宗教改革は、敵対するアッシリアにおける主神アッシュル崇拝を模範としたものであり、碑文においては、アッシリアの碑文の常套句である「神アッシュルのお力により」を模倣した「神ハルディのお力により」という表現が、王の業績を語る際の決まり文句として用いられるようになりました。

イシュプイニの治世は、ウラルトゥ王国の政治、軍事、そして宗教における重要な転換期であり、彼の改革は、後代のウラルトゥ王国の発展に大きな影響を与えました。

参考文献

W. C. Benedict, The Urartian-Assyrian Inscriptions of Kelishin, JAOS 81, 1961, 359-85.
Lehmann-Haupt, Materialien zur älteren Geschichte Armeniens und Mesopotamiens (1906).
Пиотровский Б. Б. Ванское царство (Урарту), Издательство Восточной литературы, Москва, 1959
（邦訳）『埋もれた古代王国の謎 幻の国ウラルトゥを探る』（ボリス・ボリソヴィッチ・ピオトロフスキー著、加藤九祚訳、岩波書店） ISBN 9784000001601 (4000001604)
* Меликишвили Г. А. Урартские клинообразные надписи, Издательство АН СССР, Москва, 1960

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