イスラエル・バスケス

メキシコ出身の元プロボクサー、イスラエル・バスケス（Israel Vázquez Castañeda、1977年 12月25日 - 2024年 12月2日）は、WBCおよびIBF世界スーパーバンタム級の統一王座に君臨した偉大なチャンピオンです。メキシコシティに生まれた彼は、その勇猛果敢なファイトスタイルと劇的な逆転劇で「Magnifico（マグニフィコ、魔術師）」の異名を取り、多くのファンを魅了しました。特にラファエル・マルケスとの間で行われた一連の激闘は、ボクシング史における伝説として今なお語り継がれています。

ファイトスタイル

バスケスは、類まれなパワーと破壊力を持つハードパンチャーであり、同時に攻守にわたる多彩な技術を兼ね備えていました。リングの中央や至近距離での打ち合いを好むインファイターであり、常に相手との間で壮絶なパンチ交換を繰り広げるスタイルは、見る者を熱狂させました。彼の試合では、不利な状況や劣勢に追い込まれたかに見えても、瞬時の踏み込みから放たれる強烈なショートパンチでダウンを奪い、試合の流れを一気に引き寄せるというドラマチックな場面が頻繁に見られました。この予測不能な展開を生み出す能力こそが、「魔術師」と呼ばれる所以でした。

プロキャリア

バスケスは1995年3月29日、18歳でプロのリングに上がりました。プロキャリア初期はメキシコ国内で活動し、1997年には後に世界チャンピオンとなるオスカー・ラリオスを3回KOで下すなど、将来性を感じさせる戦いを見せました。1998年には活躍の舞台をアメリカ合衆国に移し、1999年には地域タイトルの決定戦に挑みましたが、判定で敗れています。

その後、2000年にはIBAコンチネンタル、2001年にはNABFといった地域タイトルを獲得し、世界挑戦への足がかりを固めていきました。2002年5月17日には、再びオスカー・ラリオスと対戦。WBC世界スーパーバンタム級暫定王座がかけられたこの試合では、12回TKOで敗れ、過去の勝利の借りを返される形となりました。

しかし、バスケスは再び立ち上がります。2004年3月25日、ホセ・ルイス・バルブエナを12回TKOで破り、空位となっていたIBF世界スーパーバンタム級王座を獲得しました。このタイトルを2度防衛した後、2005年12月3日には宿敵オスカー・ラリオスとの三度目の対戦に臨み、これを3回TKOで制してIBF王座を防衛すると同時に、WBC世界スーパーバンタム級王座も獲得し、主要二団体の王座統一を果たしました。

統一王者として、2006年6月にはイバン・エルナンデスを退け初防衛に成功。同年9月には、1階級下のWBO世界バンタム級王者であったジョニー・ゴンザレスからの挑戦を受けました。この試合では序盤に2度のダウンを奪われる苦しい展開となりましたが、バスケスは驚異的な粘りを発揮し、10回TKOで逆転勝利を収め、王座を守りました。

ラファエル・マルケスとの伝説的な激闘

イスラエル・バスケスのキャリアにおいて、ラファエル・マルケスとの戦いは欠かせません。2007年3月3日に行われた初対戦は、ゴング開始から終了まで両者が一切引かない凄まじい打撃戦となり、リングはまさに血みどろの様相を呈しました。この試合は7回にバスケスの負傷によりストップとなり、王座を失いました。

同年8月4日、迎えたリベンジマッチは、前戦をさらに上回る激しさとなりました。バスケスは初回からマルケスと壮絶な殴り合いを繰り広げ、6回に猛攻を仕掛けてレフェリーストップによるTKO勝利を収め、王座を奪還しました。この試合は、米リングマガジン誌の2007年年間最高試合に選ばれるという栄誉に輝きました。

そして2008年3月1日、両者の決着をつけるラバーマッチが行われました。この第三戦もまた、初回からダウンを奪い合う文字通りの激闘となり、最終ラウンドまで気の抜けない展開が続きました。結果はバスケスが僅差の判定2-1で勝利し、王座を防衛しました。この試合は、前年に続いてリングマガジン誌の2008年年間最高試合に選出され、同一カードでの2年連続年間最高試合受賞という、ボクシング史上でも極めて稀な偉業を達成しました。

キャリア終盤と引退、そして惜別の時

マルケスとの激しい戦いは、バスケスの体に大きな代償をもたらしました。特に目の負傷に悩まされるようになり、網膜剥離のため長期戦線離脱を余儀なくされました。これにより、2008年12月にはWBCから名誉王者に認定されています。

2009年にリングに復帰しましたが、2010年5月に行われたラファエル・マルケスとの4度目の対戦では、3回KO負けを喫し、対戦成績は2勝2敗となりました。この試合で受けたダメージにより目の状態はさらに悪化。網膜剥離が再発するなど、視力は回復せず、希望していたフェザー級への転向も叶わないまま、2011年7月に現役引退を表明しました。

引退後も目の状態は改善せず、2016年には右目を失明し、義眼にする手術を受けたことを公表しています。

晩年、バスケスは病魔に冒されました。2024年11月1日にステージ4の肉腫と診断され、懸命な治療も空しく、同年12月2日夜、ロサンゼルスにて癌のため46歳で永眠しました。

常に全力で戦い、見る者の魂を揺さぶる激闘を繰り広げた「マグニフィコ」イスラエル・バスケス。彼の不屈の精神と、ボクシング史に刻まれた伝説的な戦いは、これからも語り継がれていくでしょう。

主な獲得タイトル

IBAコンチネンタルスーパーバンタム級王座
NABF北アメリカスーパーバンタム級王座
IBF世界スーパーバンタム級王座（第12代）
WBC世界スーパーバンタム級王座（第22代、第24代）

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