イナブの戦い

イナブの戦いの概要

背景

イナブの戦いは、1149年6月29日に発生し、十字軍国家であるアンティオキア公国とニザール派の連合軍が、ザンギー朝とブーリー朝の同盟軍と衝突した重要な戦闘です。この戦いは、第二回十字軍の一環として、ザンギー朝のヌールッディーン・マフムードが権力を強化し、アンティオキアへの攻撃を仕掛けたことから始まります。

ヌールッディーンは、ブーリー朝のムイーヌッディーン・ウヌルと連携を強め、北シリアでの影響力を拡大していました。彼は、数件の小競り合いを経て、ウヌルに援軍を求め、さらに大規模な攻勢を計画します。最初にハーリムとアパメアを攻撃し、その後イナブの城塞を包囲、アンティオキア公のレイモンをその戦場に引き出しました。

戦闘の進行

戦闘前日の6月28日、ヌールッディーンはアンティオキア軍の接近に伴い一時的に兵を退かせました。これにより、レイモンは状況を楽観視し、あえて安全地帯まで下がらず平野で野営をセットしました。しかし、実際にはヌールッディーンの軍は近くに潜んでおり、敵の位置を把握した彼は夜を利用して再度攻撃の準備を整えます。

6月29日の夜明けに戦闘が始まり、包囲されたアンティオキア公国軍は奇襲を受けました。彼らは数において劣っており、ヌールッディーン率いる軍勢によってあっけなく打ち破られます。この戦いでは、レイモンとクルド人指揮官アリー・イブン・ワファーが討たれ、アンティオキア軍は壊滅的な敗北を喫しました。レイモンの首は捕えられ、銀の箱に詰められてバグダードへ送られたとされています。

戦術と影響

ヌールッディーンは、攻撃と退却を巧みに利用した「アル＝カッル・ワ・アル＝ファッル」と呼ばれる戦術を得意としていました。イナブの戦いは、彼のこの戦術を大規模に適用した良い例とされています。

この戦闘の結果、ヌールッディーンはアパメアとハーリムの確保に成功し、彼の勢力が地中海にまで影響を広げることができました。これにより、アンティオキア公国は君主を失い、さらにザンギー朝とブーリー朝のダマスカスを巡る抗争に巻き込まれることができなくなりました。一方、ヌールッディーンはダマスカス攻略の土台を築いたのです。

この戦闘によって、イブン・ワーシルの記録によれば、シールクーフもヌールッディーンからの信頼を獲得し、彼の軍において重要な位置を占めるようになりました。

まとめ

イナブの戦いは、十字軍とイスラームの大きな転換点でありました。この出来事は、長らく続く対立の中で重要な役割を果たし、地域の権力構造に変化をもたらしました。

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