イリス (オペラ)

『イリス』は、ピエトロ・マスカーニが作曲し、ルイージ・イッリカが台本を手掛けたオペラ作品です。1898年11月22日にローマのコスタンツィ劇場にて、マスカーニ自身の指揮によって初演されました。この作品は、プッチーニの『蝶々夫人』よりも前に制作されたジャポニスムオペラの一つであり、舞台を日本に設定している点が特徴です。

物語の舞台は江戸時代で、盲目の父と暮らす娘イリスが、騙されて遊郭に売られてしまうという悲劇的な内容です。登場人物には、主人公のイリス（ソプラノ）、イリスの盲目の父（バス）、イリスを誘惑するオオサカ（テノール）、遊郭の主人であるキョート（バリトン）などがいます。その他、芸者（ソプラノ）、ディーア（ソプラノ）、行商人（テノール）、くず拾い（テノール）、そして三人の踊り子が登場します。

『イリス』の劇中では、特に「蛸のアリア」が有名です。このアリアは、葛飾北斎の浮世絵「蛸と海女」からインスピレーションを得て作られたと言われています。このオペラは、日本を舞台にしているだけでなく、日本文化に対する関心が非常に高く、当時のヨーロッパにおける日本趣味（ジャポニスム）の影響を強く受けていることが伺えます。

また、1907年にはアメリカのメトロポリタン歌劇場でエマ・イームズが主演した際、日本女性の所作を学ぶために、女優の川上貞奴が演技指導にあたったというエピソードも残っています。

日本での初演は1985年8月に、藤原歌劇団と二期会の合同により、日生劇場にて行われました。この公演では、指揮を井上道義が、演出を粟國安彦が担当しました。主要な役を演じたのは、イリス役の東敦子、盲目の父役の高橋啓三、オオサカ役の小林一男、キョート役の栗林義信などです。さらに、芸者役の伊達伸子、小間物屋役の五十嵐修、くず拾い役の平良栄一、合唱は二期会合唱団と藤原歌劇団合唱部、管弦楽は新日本フィルハーモニー交響楽団が務めました。

この初演を指揮した井上道義は、その後も2005年と2011年にこの作品を指揮しており、『イリス』に対する深い関心が伺えます。

『イリス』は、西洋の視点から見た日本を描いた作品であるものの、その音楽的魅力とドラマチックな展開は、今日でも多くの人々を魅了し続けています。舞台美術や衣装にもジャポニスムの要素が取り入れられ、異国情緒あふれる世界観が創り出されています。

なお、『イリス』よりも以前に作られたジャポニスム・オペラとして、ギルバート&サリヴァンの『ミカド』が挙げられます。これらの作品は、当時のヨーロッパにおける日本のイメージを反映しており、文化交流史の観点からも重要な作品と言えるでしょう。

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