小林一男

小林一男：日本のテノールを代表する声楽家

小林一男（こばやし かずお）は、1949年7月15日生まれ、山梨県出身のテノール歌手、オペラ歌手、音楽教育者、そして合唱指揮者として多岐にわたり活躍しています。その卓越した歌唱力と、後進の育成への情熱は、日本の音楽界に大きく貢献しています。

経歴

山梨県立都留高等学校を経て、1972年に国立音楽大学声楽科を卒業。1973年には同大学音楽研究科オペラ専攻を修了しました。同年、日伊声楽コンコルソでミラノ大賞を受賞し、イタリア政府給費留学生としてミラノのヴェルディ音楽院に留学。田島好一、渡邊高之助、Ｍ・カルボーネ、Ｓ・Ｓ＝コルティといった名だたる指導者のもとで研鑽を積み、Conservatorio di Musica G. Verdiで学位を取得しました。

1974年、ミラノのピッコラ・スカラ座でドニゼッティのオペラ『リタ』に出演し、プロとしてのキャリアをスタート。その後、マントヴァ、ボローニャ、ヴェネツィアなどイタリア各地の劇場で活躍しました。1975年からは西ドイツのオルデンブルク国立劇場と専属契約を結び、プッチーニの『外套』や『ジャンニ・スキッキ』などの主要な役を歌い、国際的な評価を高めました。

1977年に帰国後、二期会公演『蝶々夫人』のピンカートン役で日本デビューを飾り、その後も数々のオペラで主役を務めました。1983年には藤原歌劇団の『トスカ』でカヴァラドッシ役、1989年にはオーチャードホール・オープニングオペラ『魔笛』でタミーノ役、1994年には神奈川県民ホールで團伊玖磨のオペラ『素戔鳴（すさのお）』の曽尸茂梨王役（初演）を演じるなど、幅広いレパートリーを誇ります。

2002年には、新国立劇場で三枝成彰のオペラ『忠臣蔵』の橋本平左衛門役を演じたほか、同年、藤原歌劇団の『カプレーティ家とモンテッキ家』でテバルド役を演じるなど、オペラ界において重要な役柄を数多く担っています。

コンサートソリストとしても、ベートーヴェンの『第九』をはじめ、ベルリオーズの『キリストの幼時』『ファウストの劫罰』、マーラーの『大地の歌』、メンデルスゾーンの『エリヤ』など、数々の作品でソリストを務めています。NHK交響楽団、東京都交響楽団、東京交響楽団など、国内主要オーケストラとの共演経験も豊富です。朝比奈隆、渡邉暁雄、小林研一郎、井上道義、若杉弘といった著名な指揮者たちとも共演しています。

また、ピアニスト森島英子氏と共に「小林一男リサイタル」と題したソロリサイタルを全国8箇所で開催。2016年には「日伊声楽コンコルソ入賞者披露 イタリア名曲コンサート」にベテラン歌手として出演し、その存在感を示しました。

教育者としての活動

教育者としては、国立音楽大学教授、大学院音楽研究科教授、音楽研究所主任研究員として、後進の育成に尽力しています。多くの門下生を育てており、その中には、岡昭宏、大槻聡之介、村松恒矢、安田祥子、阿部雅子など、現在活躍中の声楽家も多数含まれています。2015年の定年退職後も、公開セミナーを開催し、ベルカント唱法の真髄を伝えています。

さらに、六本木男声合唱団のコーラスマスターを務め、2003年の欧州演奏旅行ではソリストも担当しました。また、イタリア人作曲家ニーノ・ロータの研究を深め、毎年オペラ公演を制作・総監督しています。親しい友人たちと「マトゥーリ男声合唱団」を立ち上げ、団長兼指揮者としても活躍しています。

受賞歴

数々の賞を受賞しており、その功績が認められています。

1972年：国立音楽大学・武岡賞
1973年：日伊声楽コンコルソ ミラノ大賞
1973年：イタリア政府給費留学生試験合格
1974年：イタリア レッジオ・エミーリア市国際声楽コンクール特別賞
1983年：第11回ジロー・オペラ賞
1994年：山梨日々新聞社・野口賞
1996年：NHK交響楽団・有馬賞

楽界活動

様々な音楽関連の団体にも積極的に関わっています。

日伊音楽協会 理事
日伊声楽コンコルソ審査委員
日本音楽コンクール審査委員
日本モンゴルオペラ芸術協会 会員
日伊協会 会員
K 声楽コンクール 審査員

ディスコグラフィー

数多くのCDやDVDをリリースしています。以下は主なものとなります。

DVD NHK名曲アルバム 楽聖たちへの旅『ベルディとロッシーニ』
DVD NHKクラシカル 朝比奈隆 NHK交響楽団 ベートーベン 交響曲第9番ニ短調『合唱つき』
CD ベートーヴェン交響曲第9番『合唱付き』
CD 三枝成彰『レクイエム』 - 曾野綾子のリブレットによる
XRCD7枚組 NHK交響楽団によるベートーヴェン：交響曲第9番『合唱』1980年代編 完全限定盤

エピソード

ベルカントテノールとして知られる小林ですが、国立音楽大学入学当初はバリトンでした。大学3年の終わりに先生と議論の末にテノールに転向したというエピソードも持っています。

まとめ

小林一男は、その卓越した歌唱力と教育者としての情熱により、日本の音楽界に多大な貢献をしています。オペラ、コンサート、教育、合唱指揮など、多岐にわたる分野で活躍を続ける小林一男の今後の活動にも目が離せません。

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